最終年度は細胞周期依存的な細胞質の温度変化解明につながる知見の収集に努めた。放射線照射によるDNA損傷は細胞周期チェックポイントによる細胞周期停止および遅延生じさせるため、その前提となる細胞周期依存的な細胞内温度変化の解明は、放射線による細胞内温度変化を明らかにするための重要な基礎的知見となる。細胞周期依存的な細胞質の温度変化を明らかにするため、細胞周期可視化システム(Fluorescent Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator : Fucci)を導入したHeLa細胞に蛍光ナノダイヤモンドをエンドサイトーシスにて取り込ませ、各細胞周期の温度計測を実施した結果、G2/M期の細胞質温度が他細胞周期よりも高いことを示唆する結果を得た。 研究期間全体を通しては、細胞質(主にミトコンドリア)に対する放射線の影響を放射光X線マイクロビームを用いて解明を試み、正常細胞では細胞質のみへのX線照射はミトコンドリア量の減少を誘発し、一方、核のみへの照射ではmitotic skipによるミトコンドリア量の増加を誘発するという照射部位特異的に相反する影響を誘発することを解明した。また、X線照射による細胞質温度の定量を行い、照射後1時間において細胞質の温度が上昇すること、細胞質の温度上昇ががん細胞、正常細胞を問わず誘発されることを示唆する結果を得ている。さらに、将来的な動物個体レベルでの放射線による細胞温度変化の解明に向け、マウスを用いたin vivoイメージング系において世界最高範囲のナノダイヤモンドを用いた温度計測手法の開発にも成功した。
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