研究課題/領域番号 |
20K19970
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
永田 健斗 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 放射線影響研究部, 博士研究員 (00867236)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射線影響 / 炎症反応 / ラット / 乳腺 / 組織微小環境 |
研究実績の概要 |
哺乳類のモデル動物であるラットでは、放射線により乳がんが誘導される。乳腺における発がんのメカニズム解明のため、乳腺細胞の放射線応答、とくにDNA損傷をきっかけとした発がんを想定した研究がなされている。乳がんの発生リスクは低線量率放射線の影響が高線量率よりも低くなること(つまり、線量率効果があること)がラットを用いた動物実験によって報告されている。一方で、慢性炎症等の組織微小環境の変化によっても発がんが誘導される。例えば、放射線により誘導された炎症反応は発がんを促すことが知られている。しかし、ラット乳腺における放射線発がんに炎症反応が関与しているかどうか、未解明な部分が多い。本研究では、ラット乳腺組織における放射線発がんの線量率依存性をもたらす原因を、炎症反応等の組織微小環境の面から明らかにすることを目指す。 今年度は、ラット乳腺における炎症反応に関与する細胞の局在について検討を行うため、複数の炎症マーカー(抗体)を検討した。一つ目に、乳腺上皮細胞周囲の間質組織に存在するマクロファージは、乳腺伸長や発がんを促進することが知られている。そこで免疫細胞の一種であるマクロファージの局在について、放射線非照射時のラット乳腺のパラフィン切片上で免疫組織学的に検討した。ラット乳腺で使用出来るマクロファージマーカーを決定した。マクロファージの局在についても評価し、マクロファージは乳腺の末梢芽状突起周囲の間質細胞に多く存在することを確認した。二つ目に、主要な炎症反応マーカーであるiNOS、COX-2等の局在についても抗体の使用条件の検討を行い、ラット乳腺組織上での分布を確認した。 今後は、複数の放射線照射条件を設定した実験群のパラフィン切片において炎症関連マーカーを用いた局在を検討する他、遺伝子発現解析を通じた炎症反応の実態を探る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、前年度までに準備した動物サンプルのパラフィン包埋ブロックを、ミクロトームを用いて薄切し、厚さ3umのパラフィン切片を作製した。この切片において、炎症反応関連抗体を用いた免疫染色法によって、ラット乳腺組織における炎症反応を検討した。 まず、乳腺を取り巻いている間質細胞におけるマクロファージの局在を評価した。白血球の一種であるマクロファージは、炎症作用に寄与することが知られている。マクロファージのマーカーとして抗CD68抗体を候補に染色条件の検討を行い、抗体の使用条件を確立した。ラット乳腺組織においてはCD68陽性細胞が間質細胞に多く存在し、とくに分裂能の高い乳腺上皮細胞で構成される末梢芽状突起(Terminal End Bud, TEB)周囲の間質に多くのマクロファージが存在することを明らかとした。また、主要炎症マーカーであるiNOSおよびCOX-2に対する抗体についても使用条件を確認し、ラット乳腺組織におけるiNOS、COX-2の局在を確認した。 上記記載内容のように、ラット乳腺組織における炎症関連分子の局在を可視化する実験系を今年度中に確立でき、現在までの進捗状況としては概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ラット乳腺組織における炎症反応の放射線線量率効果の有無を検証すべく、最終年度の取りまとめに向けて次の実験課題に取り組む。 第一に、前年度までに準備した動物サンプル(ラット乳腺組織)を用いて、放射線照射後数日以内の初期応答(高線量率照射)と数週間後の中長期的応答(高線量率照射および低線量率照射)について、これまでに決定した炎症関連因子を指標にして炎症反応と放射線被ばくの関連性を評価する。第二に、前年度までに確立している透明化組織―免疫染色法を駆使し、炎症反応の局在を立体的に把握することをめざす。第三に、前述の解析の結果に基づき、炎症反応が非照射時に比べて有意に変わる条件(照射後時間、線量率)において放射線照射実験を再度実施し、分子解析用のサンプルを回収する。得られた分子サンプル(RNA)を用いた遺伝子発現解析(RNAシーケンス、RT-PCR等)を実施し、炎症反応の詳細を把握する。 また、得られた研究成果については、国内学会、国際学会において積極的に対外発表するほか、学術誌への論文投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大により、国内学会、国際学会への現地参加が困難な状況になり、旅費(交通費)に関わる支出が抑えられた。さらに、緊急事態宣言による出勤抑制、在宅勤務割合を高めたことにより、計画していた動物飼育に関わる支出を抑えた。 来年度は、学会現地開催参加を積極的に検討し、旅費に関わる支出が増える事が予想される他、遺伝子発現解析実験のための消耗品購入に充てることを計画している。
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