研究課題/領域番号 |
20K19972
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研究機関 | 一般財団法人電力中央研究所 |
研究代表者 |
内之宮 光紀 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 主任研究員 (40784426)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 数理モデル / 低線量率放射線 / 細胞競合 / 複製エラー |
研究実績の概要 |
低線量・低線量率放射線被ばくにおいては、生体組織において放射線に被ばくした細胞と被ばくしていない細胞が混在すると想定され、それら状態の異なる細胞の相互作用を考慮することが低線量・低線量率放射線影響を正確に評価する上で重要である。本研究では、数理モデルによって細胞間相互作用の効果を定量的に示し、低線量・低線量率放射線の影響をより正確に評価するための基盤を構築する。 本年度は、注目している細胞状態とその細胞が相互作用する相手の細胞の状態の両方によって相互作用の効果が決定されるモデルに対して、空間構造の影響に対する解析を追加した。これまでは正方格子空間を想定し、1個の細胞は上下左右斜めの8個の細胞と相互作用する状況(Moore近傍)を想定していたが、追加で正方格子空間かつ上下左右の4個の細胞と相互作用する状況(Neumann近傍)と、細胞が六角格子状に並び1個の細胞が周囲の6個の細胞と相互作用する状況での解析を追加した。全ての細胞が無傷細胞の状態から、全ての細胞が損傷細胞に変わるまでの待ち時間を計算した結果、Moore近傍、六角格子、Neumann近傍の順で空間構造がない場合の結果に近い結果が得られた。このことは、放射線影響の正確な定量的評価には組織の空間構造を適切に想定することが重要であることを示している。次年度はこれらの結果をまとめて論文化する予定である。 また、オルガノイドを用いた実験結果から、細胞競合に関わるパラメータを抽出するモデルの構築を進めており、結果を日本数理生物学会で発表した。 さらに、無傷細胞から複製エラーによって変異細胞とがん細胞が生じるモデルの構築にも着手し、シミュレーションと解析解を比較して、先行研究で知られているStochastic Tunnelingを再現できることを確認した。次年度は放射線影響を明示的に組み込んだモデルに改良して解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
格子空間を仮定したモデルの解析が順調に進んでおり、論文化に向けてより詳細な最後の解析を進めている。また、実験結果から必要なパラメータを抽出するモデルや、がん細胞を含んだモデルの構築も順調に進んでおり、2023年度の計画を進める土台が整っている。2020年度の研究成果をまとめた論文は、未だに査読対応中であるが、大きな修正は完了している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究が計画通りに進んでいるため、引き続き計画に従い、放射線によるDNA損傷と複製エラーによってがん細胞が生じるモデルを構築し、がんの統計データや実験データから得られたパラメータを適用して、低線量・低線量率放射線の影響をより正確に評価するための基盤を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響によって学会がオンライン開催になったため、旅費が未使用となっている。可能であれば、解析ソフトの更新や論文投稿費にあてる。
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