研究課題/領域番号 |
20K19974
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
津田 雅貴 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 助教 (00734104)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNA二本鎖切断 / 放射線類似作用物質 / チロシル-DNAホスホジエステラーゼ |
研究実績の概要 |
研究代表者はチロシル-DNAホスホジエステラーゼ(TDP) の反応機構を解析してきた。TDPには、TDP1とTDP2の2種類存在している。TDP1は、DNA3'末端にトラップされたトポイソメラーゼ1を除去する活性を有する。一方、TDP2は、DNA5'末端にトラップされたトポイソメラーゼ2を除去する活性を有する。最近、研究代表者は、TDP1遺伝子欠損細胞において、TDP2はDNA3'末端に結合したトポイソメラーゼ1を除去する活性があることを発見した(Tsuda M et al, DNA Repair, 2020)。さらに、研究代表者は、TDP2は、DNA3'末端に結合した様々なDNA損傷を除去する活性があることも発見した(Tsuda M et al, DNA Repair, 2020)。このように、細胞内において、TDP1およびTDP2は、様々なDNA損傷の除去を行なっていることが明らかになってきたが、DNA二本鎖切断(DSB)の修復に関与するか不明であった。そこで、研究代表者は、TDP1・TDP2遺伝子を破壊したヒトTK6細胞を用いて、放射線および放射線類似作用物質(ブレオマイシン・カリケアミシン)に対する感受性を調べた。その結果、TDP1/TDP2二重遺伝子欠損細胞は放射線に対してほとんど感受性を示さなかったが、放射線類似作用物質に対しては非常に高い感受性を示した。この結果は、放射線誘発DNA二本鎖切断とは異なり、放射線類似作用物質誘発DNA二本鎖切断は、TDP1やTDP2が共同する新規な経路により修復されることを示唆する。本年度は、DSB修復速度の定量、TK6ミュータントライブラリーを用いた遺伝学的解析を行った(現在までの進捗状況で記載)。これらの結果から、新規修復経路に関わる分子はこれまで知られていたDSB修復に加えてTDPが関与することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで行なってきた研究から、TDP1/TDP2二重遺伝子欠損細胞は、放射線類似作様物質(ブレオマイシン・カリキアミシン)に高い感受性を示すことを明らかにしてきた。この高い感受性が、DNA二本鎖切断(DSB)の修復の遅延による影響かを明らかにするために、中性コメットアッセイによるDSB修復速度を調べた。その結果、TDP1/TDP2二重遺伝子欠損細胞の修復速度は、野生型細胞や各一重遺伝子欠損細胞より優位に遅延することが分かった。この結果は、TDP2は、TDP1非存在下において、放射線類似作用物質が生成するDNA損傷の修復を行なっていることを示唆する。 さらに、DNA修復関連遺伝子をノックアウトしたTK6細胞コレクション(TK6ミュータントライブラリー)を用いた遺伝学的解析を行なうことで、TDP1とTDP2が共同して働く新規なDSB修復機構に関与する分子を見つけることとした。そこで、本研究では、二本鎖相同組換え、非相同性末端連結、損傷乗越え、ミスマッチ修復経路、DNA二本鎖切断チェックポイントに関与する遺伝子の欠損細胞をブレオマイシン・カリキアミシンおよびX線(コントロール)で処理し、メチルセルロース培地に播いた。10~14日間培養し、出現したコロニー数を数えた。修復遺伝子欠損細胞と野生型細胞の生存率を比較し、感受性スペクトラムを作製した。その結果、TDP1/TDP2二重遺伝子欠損細胞の感受性スペクトラムは、放射線類似作用物質で高い感受性を示すが、X線に対してはほとんど感受性を示さなかった。他の遺伝子欠損細胞の感受性スペクトラムは各薬剤間でほぼ同じであった。この結果から、TDP1やTDP2は、放射線類似作様物質が作る特殊なDNA損傷を除いた後は、通常のDSB修復経路に関わる分子が働くと推定した。
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今後の研究の推進方策 |
ブレオマイシン・カリケアミシンはDNAの糖4'位を酸化し、3'グリコールリン酸(3'-PG)と5'リン酸(5'-P)をもつDSB末端を形成する。そこで、試験管内反応を用いて3'-PGがTDP1・TDP2標的損傷かを明らかにする。具体的には、3'-PGを含むオリゴヌクレオチドは化学的に合成可能であることから、モデルDNAとしてこれらを合成する。32Pで放射性標識したモデルDNAとTDP1またはTDP2タンパク質(市販)をインキュベートし、PAGE分析により3'-PGが除去されるのかを明らかにする。さらに、細胞に放射線類似作様物質を暴露した際に、ゲノムDNAに生成する3'-PGを得的に検出する手法を開発する。3'-PGは、カルボン酸末端をcarbodiimide/sulfo-NHSで活性化し、Oregon Green 488で蛍光標識する。最初に、前述の3'-PGが結合したオリゴDNAをモデルとして、標識条件を最適化する。さらに、ゲノムDNAにおける3'-PG修復動態の解析を行うために、TDP1一重遺伝子欠損細胞、TDP2一重遺伝子欠損細胞、TDP1/TDP2-二重遺伝子欠損細胞にブレイマイシン・カリケアミシンを処理し、経時的にゲノムDNAを単離する。ゲノム中の標的損傷を前述の方法で定量し、TDP1・TDP2が標的損傷除去に関与しているかを直接明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に行なったコメットアッセイにおいて、当初市販の試薬を用いる予定であったが、研究室で作製した試薬で研究遂行できたことで出費を抑えることに成功したため次年度使用額が生じた。2021年度に、追加でTDP1酵素の購入を行う。
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