研究課題/領域番号 |
20K19977
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
松中 哲也 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (60731966)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 日本海底層水 / I-129 / 加速器質量分析 / トレーサー / 深層循環 / I-129沈着量 |
研究実績の概要 |
日本海において化学トレーサーを用いて深層循環の変化を検知することは、気候変動に対する海洋循環の応答性を明らかにする上で重要である。核燃料再処理施設由来の長寿命放射性ヨウ素(I-129)は、北大西洋や北極海において海水循環トレーサーとして利用されている。本研究は、地球温暖化に対する日本海深層循環の応答性を検知するためにI-129を用いて日本海底層水の動態を把握することを目的とした。日本海におけるI-129の水平・深度分布を広域的に調査し、底層水中I-129の経年変化に着目した。2010年、および2017-2020年の研究航海において、日本海盆と大和海盆で、鉛直方向に水深3500mと3000mまで採水し、海水中I-129を計測した。また、日本海周辺域(北陸)におけるI-129沈着フラックスについて現在の季節変動と湖沼堆積物に記録された1950年以降の変動を解析した。 日本海における表層水中I-129は、基本的に高緯度域と対馬海峡の北側で高く、南からの黒潮系海水、北からのリマン海流、および東シナ海からの浅層海水に由来する水塊の混合に関する情報を得ることができると考えられた。また、日本海の亜熱帯循環域表層において、2017-2022年にかけてI-129の増加傾向が認めれられた。同様な傾向が、オホーツク海南西域においても確認された。一方、2017-2019年において、大和海盆と日本海盆における底層水中のI-129濃度に有意な経年変化が認められなかったことから、日本海の底層水循環が停滞している可能性が示唆された。北陸におけるI-129沈着量は、西暦1946年以前は低いレベルであったのに対し、西暦1946年以降増加し、西暦1978年頃に極大を示す分布であり、西暦1946年以降の核燃料再処理・大気核実験によって大気放出されたI-129の沈着量増加を表している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本海側のI-129沈着量は、冬季モンスーンの影響で高くなり、高緯度地域でより高かったこと、表層海水中のI-129は、高緯度海域で高く対馬海峡から黒潮海水の流入によって低くなること、および高緯度海域で経年的に増加していることを明らかにした。また、2017-2019年において、日本海盆と大和海盆における底層水中のI-129濃度を計測した結果、少なくともこの期間において優位な経年変化が無いことを明らかにした。今後更なる海洋観測と未分析試料のI-129測定を進めることによって、今回得られた2017-2019年における底層水中I-129濃度を基準として、日本海底層水の動態を評価できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2025年度は、日本海盆と大和海盆で2020年に採取された底層水のI-129分析を行い、2017-2020年におけるI-129濃度の変化を評価する。また、日本海周辺域(北陸・北海道)におけるI-129沈着フラックスについて現在の季節変動と湖沼堆積物に記録された1950年以降の変動を解析し、日本海に供給される大気由来I-129と対馬海峡からの海流由来I-129の寄与を評価する。その上で、人類の核活動が実施される前(1950年以前)の海水中のI-129濃度を基準に、近年までの日本海底層水中のI-129濃度の増加分を評価する。得られた結果を国内外学会で発表すると共に、学術論文として公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間中にコロナ禍が含まれ、一部の筑波大学静電加速器施設の利用(I-129)に関する出張を中止にし、学会発表を一部オンライン形式で実施してきた為、毎年度、次年度使用額が生じてきた。I-129測定前処理の迅速化を図る為の物品購入、および学会発表関連の経費に使用する予定である。
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