魚類肝細胞の培養は、シャーレ底面に細胞を接着・伸展させる「単層培養法」により、毒性試験へ応用されている。しかし単層培養法では、生体の細胞が元来有する構造や機能を失い、長期に渡る試験が困難であった。細胞を密に集合させた「スフェロイド培養」は、単層培養よりも生体に近い機能を模倣できるが、その機能の向上・長期維持には限界がある。 そこで申請者は、スフェロイド形成時に細胞外マトリクス(ECM)を添加し、さらなる機能発現の向上を発想した。本研究では、「スフェロイド化+ECM添加の相乗効果」により、生体内の細胞の立体構造や機能を模倣し、それを少なくとも1ヶ月間維持できる魚類肝細胞の培養方法の確立を目指す。 魚類肝細胞株であるPLHC-1細胞のスフェロイド化、およびスフェロイドの特性解析を行った。PLHC-1細胞スフェロイド内部には胆管様構造を形成している可能性があると共に、高い薬物代謝活性(EROD活性)を維持した。続いて、コラーゲン、ゼラチン、および人工コラーゲンペプチド溶液を添加し、スフェロイドの形態(形成過程)と構造、薬物代謝活性に与える影響を評価した。ゼラチン溶液添加群がやや高い薬物代謝活性を示したが、3種類のECMでは大きな差が見られなかった。そこで最終年度では、魚類肝細胞の機能向上に寄与する他の因子も検討しておく必要があると考え、「培養基材の違い」が肝細胞の増殖や形態に与える影響についても評価を進めた。その結果、通常のポリスチレンシャーレよりも酸素透過性の高い材料を用いたシャーレ上で、高い薬物代謝活性(EROD活性)を維持した。 本研究の狙いであった、ECM添加による顕著な機能向上は実現することはできなかった。一方、魚類肝細胞の機能向上に寄与する他の因子として、「培養系への酸素透過性」が、PLHC-1細胞の機能発現に影響している可能性を見出すことができた。
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