研究課題/領域番号 |
20K19980
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
西川 洋平 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 産総研特別研究員 (90867277)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シングルセル / 全ゲノム解析 / 薬剤耐性遺伝子 / 環境微生物 / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
(研究目的)本研究では、単一細胞(シングルセル)全ゲノム解析という独自の技術を用いて、河川水中に存在する薬剤耐性遺伝子(Antimicrobial resistance genes:ARGs)の解析を行う。河川に生息する薬剤耐性菌のシングルセルゲノム情報を網羅的に取得することにより、「どの細菌が」「どのような機序で」「どの程度の割合で」ARGを獲得しているのか、時間的・地理的な視点を含めた分布を明らかにすることを目指す。
(研究方法)2020年8月と11月において、多摩川流域の7地点より川水を採取し、濾過操作によって細菌画分の調製を行った。得られた細菌画分からメタゲノムを抽出し、16S rRNA遺伝子を標的とした細菌叢解析を実施した。また、微小液滴(ドロップレット)作製技術を用いて細菌をシングルセルレベルで液滴内に封入し、全ゲノム増幅および次世代シーケンサーを用いた配列解析を実施した。
(研究成果)16S rRNA遺伝子を標的とした解析により、多摩川流域の川水中の細菌叢は上流から下流にかけて連続的に変化していることが明らかとなった。また、シングルセルゲノム解析により、合計3,418個のSAG(Single amplified genome)を獲得した。これらのSAGに対して公共データベースを用いて配列の検出を行うことにより、テトラサイクリン耐性遺伝子やβ-ラクタム耐性遺伝子をはじめとする種々のARGの配列断片が検出され、そのうち約9割の配列について、未培養細菌系統を含む宿主細菌の同定が可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、サンプリングの回数が当初の予定に比べて制限された。一方で、1回のサンプリングにおいて解析を行うシングルセルゲノムの数を増やすことによって、当初の予定を超える数のドラフトゲノム情報を取得することができた。単離培養を必要としないシングルセル解析手法を用いたゲノム解析を行うことによって、未培養の系統群に属する細菌からもARGが検出されることが明らかとなり、初年度での目的であった「どの細菌が」薬剤耐性遺伝子を保有しているのか、について多くの情報を獲得することができた。これまでの成果によって、ARG解析におけるシングルセルゲノム解析の有用性を示すことができたと考えている。また、細菌が「どのような機序で」「どの程度の割合で」ARGを獲得しているのか、についての解析をすでに開始しており、当初の研究項目の一部を前倒しして進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に従い、河川水中の細菌のゲノムデータの蓄積とARGの検出を行う。また、得られたSAG配列からプラスミド配列、ウイルス様配列、トランスポゾン配列等の検索を行うことにより、ARGの伝播機構を含めた解析を進めていく。なお、令和3年度においても新型コロナウイルスの影響により、サンプリング機会が制限されることが予想される。その場合、川水の採取場所を初年度に実施した多摩川から、現在の研究実施施設に距離が近い神田川に変更してデータの取得を行う。異なる河川でシングルセルゲノムのデータを取得することにより、2つの都市河川間で共通して検出されるARG、あるいは河川特徴的なARGなど、計画当初には予定していなかった新たな知見が獲得できると考えている。
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