研究実績の概要 |
本研究では、多摩川流域の河川水中に生息する細菌を対象としてシングルセルゲノム解析を行うことにより、薬剤耐性遺伝子(Antimicrobial resistance gene:ARG)の分布を明らかにする。複数期間・地点にわたってサンプリングを行うことにより、どの細菌が、どのような機序で、どの程度の割合でARGを獲得しているのか、時間的・地理的な視点を含めて明らかにする。 2020年8月, 11月に多摩川流域の7地点より河川水を採取してゲノム解析を行った結果、新規の配列情報を含む合計3345個のSingle amplified genome (SAG)を獲得した。得られたSAGの系統は26 門 329 属に分類され、16S rRNA遺伝子を対象とした菌叢解析において主要であった細菌系統を多く含んでいた。これらのSAGに対し、公共データベースを用いてARGの検出を行うことにより、全体の約9%に相当する306個のSAGから60 種 415 個のARGが検出された。ショットガンメタゲノム解析との比較により、1細胞のゲノム情報を用いて詳細な解析を行うことにより、メタゲノム由来のContigからは検出できないARG種が検出可能であることが明らかになった。 検出された60種のARGの内、異なる細菌属間で共通して検出された ARG は 19 種存在した。これらのARGについて、河川中での伝播の可能性を評価したところ、12種のARGがプラスミドと推定される配列上から検出された。以上の結果により、シングルセルゲノム解析によって河川水中の薬剤耐性菌を1細胞ずつ検出し、ARGの伝播、分布に関する解析が可能であることが示唆された。本成果に基づき、河川水中から検出された新規細菌系統のゲノム解析に関する論文を1報、ARGの地点・期間・細菌系統を超えた伝播に関する論文を1報、現在投稿準備中である。
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