研究課題/領域番号 |
20K19982
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
原 田 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80868258)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | モリブデン / 地下水 / バイオ炭 / 下水汚泥 |
研究実績の概要 |
【背景と目的】「安全な飲用水の確保」はヒトの命と健康にかかわる非常に重要な課題である。SDGsには、2030年までに、すべでの人々に安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する目標も設定されている。しかし、多くの開発途上国では、飲用井戸水の汚染状態は十分に明らかではない「安全ではない水」を飲まざるを得ない状況にある。研究代表者らは、開発途上国の飲用井戸水に関するフィールドワーク調査研究から、モリブデンの高濃度汚染を確認した。モリブデンの毒性については、酸化モリブデンは発がん物質カテゴリー2Bに分類されているが、発がん性に関する影響は十分明らかではない。さらに、水中の主な形態であるモリブデン酸イオンによる発がん毒性は全く明らかにされていない。そこで、本研究では、飲用水元素汚染状況の現状把握、モリブデン元素の健康リスク評価及び浄化技術の開発を目的としている。 【研究成果】2020年度と2021年度では、井戸水の元素解析およびモリブデンによる発がん毒性の解明を行なった。結果によると、アフガニスタン飲用井戸水に高濃度のモリブデン汚染が確認された。確認したモリブデン濃度により細胞死毒性は認めていないが、非腫瘍性形成性上皮細胞の形質転換能が統計的有意に促進され、発がん毒性が有することを確認した。その機構を解明するため、ウェスタンブロッティングを用い解明した。本年度では、飲用水中モリブデンの浄化技術を開発するため、①もみ殻由来バイオ炭の作製および吸着効果の評価、および②廃水処理場で発生するグラニュール汚泥のモリブデン吸着効果の評価を行なった。両方とも優れたモリブデン除去効果があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した計画通り、本年度は、飲用水中モリブデンの浄化材を開発するため、①もみ殻由来のバイオ炭、および②廃水処理場で発生するグラニュール汚泥を材料として、モリブデンに対する浄化効果を評価した。 もみ殻由来バイオ炭については、異なる量の鉄(塩化鉄:もみ殻質量比=0.5、1、2)を装填すること(Fe-RHB)によって、モリブデン吸着能力を1.7、2.2、2.8倍向上させた。また、初期濃度10 mg/L以下のモリブデン溶液にFe-RHBを1 g/L加えることで、モリブデン濃度が4時間後に0 mg/Lになることを確認した。初期pHの影響については、pHが2から12に上昇するにつれて、モリブデン吸着量を25 mg/gから35 mg/gに増加したことがわかった。共存元素の影響に関しては、ナトリウムとカリウムが共存する場合、モリブデン吸着量に影響がなかったが、二価金属のマグネシウムとカルシウムの存在下で、モリブデン吸着量がすこし低下したことが確認された。以上の結果から、鉄を装填した籾殻由来バイオ炭は優れたモリブデン除去能力があり、地下水に汚染されたモリブデンを安全基準値以下に除去することが可能である。 また、下水処理で発生する余剰グラニュール汚泥による優れたモリブデン浄化能も確認し、浄化効果の評価及びメカニズム解明を進めている。グラニュール汚泥の理論的モリブデン最大吸着量は190mg/gであった。地下水中のモリブデン濃度レベルで、5g/Lのグラニュールを加えることで、安全基準値以下に低下できることを確認した。また、地下水中存在している他の共存元素の影響を調べた結果、モリブデン吸着効果に大きな影響はなかったが、鉄イオンを共存した場合、モリブデン吸着量を少し高めた。リン酸イオンを共存した場合、モリブデン吸着量を少し低下したことがわかった。以上、上記の評価を判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度では、これまでの研究成果をまとめ、論文の発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
共通実験用消耗品が節約できたため、次年度使用額が生じた。次年度には、吸着メカニズム解明のためのXRDやFTIR等の利用料、論文の発表や学会発表に使用する予定である。
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