研究課題/領域番号 |
20K19991
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
淵田 茂司 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (50762126)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱水鉱石 / ガルバニック反応 / 黄鉄鉱 / 閃亜鉛鉱 / 海水 / 反応速度 |
研究実績の概要 |
本研究では,海底熱水鉱床開発で発生する尾行処理プロセスの最適化を構築する上で必要となる基礎情報を得る。とくに,熱水鉱石および尾鉱から発生する金属溶出を抑制するための安価かつ簡便な熱水鉱石の不溶化処理方法(不動態化処理方法)について検討する。本年度はまず,天然の熱水鉱石試料を使用し,鉱石中の硫化鉱物の酸化溶解に関する基礎情報取得を目的に実験を実施した。特に,顕著な溶出が認められる亜鉛及び鉛硫化鉱物(ZnS・PbS)に注目し,実鉱石の海水反応実験結果に基づき律速段階となるガルバニック反応の影響を定量的に評価した。実験にはガルバニック反応の因子となる黄鉄鉱(FeS2)の含有率の異なる4試料を用い,粉末化して人工海水(pH 8.2)と最大144時間反応させた。その結果,ZnS・PbSの酸化溶解速度はFeS2の含有率と正相関を持つことが分かった。とくにZnSの溶解速度はFe/Znモル比が低い場合<0.002に比べて(1.6~1.8 × 10-11 mol/m2/s),Fe/Znモル比が高い(>0.26)試料では1.3~1.5 × 10-10 mol/m2/sと約1桁大きくなることが分かった。また鉛については,PbSはFeS2とのガルバニック反応による溶解促進も確認されたが,より溶解度の大きいPbSO4のような鉱物が関与し,より速い速度で溶出することが確認された。 すなわち,熱水鉱石からの金属溶出は1)単一硫化鉱物の酸化溶解,2)ガルバニック溶解,3)溶解度の高い鉱物の溶解の3つの反応で説明され,とくに2)と3)の寄与が大きいことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は熱水鉱石中の金属溶出メカニズムについて整理し,得られた成果は国際誌に発表した。これにより,本課題で検討する熱水鉱石の金属溶出抑制条件を検討する上で重要な基礎情報が得られたことになる。ただし,感染症拡大の影響により実験が制約されたため,抑制条件の検討までは到達できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本課題では不溶化を促進する最適な物理化学処理条件の検討として,熱水鉱石を異なる温度(~300℃程度),圧力(減圧or加圧),雰囲気下(酸素or窒素)での処理,化学薬品との反応による不動態膜生成法を提案している。次年度は温度と圧力条件の検討を中心に実施する予定である。各処理で得られた試料を用いて,これまで確立した試験方法によりZnSおよびPbSの溶解速度を決定する。その結果をこれまで得られた値と比較することで,不動態生成の影響を定量評価する。またメカニズムについて,計画通りX線光電子分光装置(XPS)およびX線吸収微細構造(XAFS)により分析することで考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として2348円生じているがおおむね計画通りに使用している。これは英文校閲代の見積もり額との差額であり,次年度以降に執筆する論文の校閲代に充てる予定である。
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