研究課題/領域番号 |
20K19998
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研究機関 | 久留米工業高等専門学校 |
研究代表者 |
渡邊 悠太 久留米工業高等専門学校, 機械工学科, 助教 (20791461)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸化チタン / ショットコーティング / コールドスプレー / 固相粒子積層 |
研究実績の概要 |
酸化チタンは光触媒作用を有する材料として環境浄化分野での利用が期待されている.しかしその固定化にはバインダーが必須とされ,バインダー利用に伴う光触媒性能の低下が問題となっている.本申請研究は光触媒用酸化チタンのバインダーレス固定化技術の開発を目指すものである. バインダーを用いない酸化チタンの固定化手法としては特殊なナノ構造を有するセラミックス粉末を用いた,コールドスプレー法による超音速衝突固体接合が報告されている.コールドスプレー法とは特殊形状ノズルによって超音速にまで加速された作動ガス中に材料粉末を投入・加速し基材上に衝突堆積させる成膜技術である. R2年度の本研究においては,コールドスプレー法と同様に固体粒子衝突を利用した成膜技術であるショットコーティング法に着目した.コールドスプレー法は超音速に加速され,材料の融点以下に加熱された作動ガスを用いる成膜技術である.一方,ショットコーティング法は亜音速に加速され,非加熱の作動ガスを用いる成膜技術である.コールドスプレー法に比べ材料粒子に投入されるエネルギーが小さいことから成膜可能な材料はアルミニウムなどの軟質金属に限られている.両プロセスで特殊形状を有する酸化チタンの成膜を行い,粒子の偏平,付着形態の観察比較を行うことで粒子への投入エネルギー量が成膜可否に与える影響を考察することを試みた. ショットコーティング法において酸化チタン成膜を行ったところ,成膜条件の最適化によりショットコーティング法においても酸化チタン皮膜の作成,すなわち酸化チタンのバインダーレス固定化に成功した.このことから酸化チタンの固定化に超音速粒子衝突が必須ではないことが明らかとなった.粒子偏平付着形態や超音波洗浄機による付着粒子の剥離試験結果から粒子は基材の変形を伴わずに付着しており,コールドスプレー法と共通した付着原理の存在が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
導入を予定していた低圧型コールドスプレー装置の販売代理店倒産により導入が不可能になったことに加え,新型コロナウィルス流行の影響から協力研究先での実験が思うようにできずコールドスプレー法での成膜実験を十分に行うことができなかった.また,久留米高専における実験室の改修工事が重なり実験環境に大きな制約を受けた.しかし,類似プロセスであるショットコーティング法における検討を行うことで酸化チタン粒子の成膜に超音速粒子衝突は必須ではないことを新たに発見した.ショットコーティング法はコールドスプレー法に比べ,イニシャルコスト,ランニングコストともに安価でありショットコーティング法によって光触媒用酸化チタンのバインダーレス固定化技術の開発に成功すればその産業的意義は大きい.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目的は光触媒用酸化チタンのバインダーレス固定化技術の開発である.計画当初はすでに付着現象が確認されているコールドスプレー法における実用上の問題,すなわち応力の蓄積に伴う剥離を防ぐことで目的を達成しようと考えていた.しかし,R2年度の取り組みにより,より安価な類似プロセスであるショットコーティング法においても付着現象を確認することができた. したがって,最終的な目標を達成するために研究計画の変更を行う.まず,ショットコーティング皮膜について詳細な評価を行い,強度や光触媒性能の観点から実用化の可能性について検討する.検討によりショットコーティング法での光触媒用酸化チタンのバインダーレス固定化技術の実現可能性が確認された場合には,ショットコーティング法における成膜条件の最適化や成膜原理の検証を行っていく.ショットコーティング法単独での実用化が難しいという結論に至った場合は,コールドスプレー法と組み合わせた複合成膜技術の検討を行う.コールドスプレー法における問題は皮膜成長に伴う応力蓄積であるため,皮膜成長過程において粒子への投入エネルギが少ないショットコーティング法を組み合わせることで応力蓄積を抑える効果が期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費申請書において,当初導入を予定していた「低圧型コールドスプレー装置DYMET 423」の取り扱い企業が,社長逝去による廃業をし装置導入が不可能となったため.代替品の検討を行ったが設置予定の実験室がある建屋で改修工事が実施されることとなり部屋そのものの利用ができずR2年度の導入を断念した.実験室が使用できず外部機関での実験も新型コロナウィルス流行の影響で実施できなかったことから,研究規模を縮小せざるを得なかった. R2年度の成果からショットコーティング法による光触媒用酸化チタンのバインダーレス固定化技術の開発の実現性が示唆されたことから,次年度使用額は集塵機の導入やショットコーティング装置の改良を行いショットコーティング法での実験環境整備を行うために使用する.
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