今年度は、予定通り落葉を混合させた状態で分解させるマイクロコズム実験の解析を行なった。マイクロコズムには、秩父演習林でリタートラップを設置して採取したコメツガ・イヌブナ・ウダイカンバ・ウリハダカエデの落葉とコメツガ林下の鉱質土壌、および茨城県北山国有林(桂試験地)で同様の方法で採取したスギ・コナラ・イヌシデ・イタヤカエデの落葉とスギ人工林下の鉱質土壌を用いた。コメツガ林やスギ林での広葉樹林化を想定し、コメツガあるいはスギ1種に広葉樹1種、2種、3種と組み合わせた時の各樹種の落葉分解率を培養70日後の乾燥重量の変化から測定した。その結果、落葉の多様性が増加してもコメツガやスギでは、プライミング効果やニッチ相補性による落葉分解促進がないことが明らかになり、当初の想定とは異なる結果となった。また、スギ落葉では、落葉の多様性が増加すると真菌のDNAコピー数は増加し、どちらの樹種も落葉分解率と真菌のDNAコピー数・多様性は有意な負の関係を示していた。以上のことから、これらの針葉樹落葉の多様性で増加すると微生物量は増加するが、菌類間の競争関係など負の関係性により、落葉分解が抑制されていることが示唆された。一方で、カエデ属(ウリハダカエデとイタヤカエデ)は、樹種の増加に伴う分解促進が認められた。カエデ属の落葉は他樹種の落葉に比べて、分解されやすいことから、カエデ落葉での落葉多様性と分解率の正の関係を説明するプロセスとして、プライミング効果は否定され、分解者微生物のニッチ相補性による分解促進効果が示唆された。 研究期間全体を通じて、当初の予定通り、落葉組成と微生物群集の変化を野外調査により把握し、分解速度を促進させると考えられるプロセスを、落葉を混合させる室内実験により解明することができた。
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