本研究を通じ、中国における穀類の生産・流通・消費に係る地域構造とその変化を明らかにし、生態系保全や気候変動への影響に照らしてその方向性を評価した。助成期間のほとんどがCOVID-19パンデミックに当たり、フィールドでの活動は国内外ともに制限されたが、文献資料やWeb情報の網羅的な収集、解析を中心的に進め、種々の新たな事実を発見できた。諸成果は論文等として出版するととともに、国内・国際学会で発表した。 たとえば、国家水稲データセンターに登録されるイネ品種情報を時系列で分析することで、黄河上流灌漑域のジャポニカ主産地等での品種改良の特徴と変化を明らかにし、低アミロース化等の食味変化、生育期間の長期化・高株高化(異常気象に対する脆弱性評価に関係)、推奨施肥量の増加(環境影響に関係)を明らかにした。 また、乾燥地環境に調和した伝統穀物・雑穀(アワ、キビ等)の栽培が、20世紀半ばから継続的に縮小を続けてきたが、2005年以降は北部内陸(黄土高原~内モンゴル中部)で増加に転じていることを確認した。主産地の一つである河北省蔚県では、県城から15kmと比較的近く、地下水が豊富な扇状地で、雑穀栽培が卓越する景観を記録し、論文として報告した。2024年1~3月には、江南・華南の沿岸大都市で雑穀流通・販売の特徴を把握し、北部内陸で産出された雑穀が東部沿岸の都市住民に消費される構造を明らかにした。 さらに、環境配慮と農村開発の文脈から試みられる、水産養殖と水稲栽培を融合させた水田養殖の現状・特徴に関しては、2021年に学術雑誌に出版した総説論文に最新の情報を加え、創刊101年を迎える商業誌『現代農業』に寄稿した(依頼あり)。 以上のような諸成果の取りまとめとして、2024年3月には日本地理学会で「中国における穀物生産・消費の地域性と高度経済成長期を通じた変化」と題した口頭発表を行った。
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