本研究は、論争的な性格ゆえにこれまで政策枠組みから排除されてきた、気候工学と気候移住の二つのアプローチを適応策の文脈で捉え直すことで、気候変動の適応をめぐる人びとの言説の対立を明らかにし、新たな適応の政策的なフレーミングの提示を企図することを目的に実施した。
特に、2022年から2023年にかけて公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新の第6次評価報告書(AR6)において気候工学と気候移住のテーマがそれぞれどのように扱われているのかについて検討を行い、二つのテーマに関する最新的な学術的な動向を把握するための文献調査を進めた。その中で、特に気候移住については近年は「避難管理(managed retreat)」という用語を使って、気候変動対策におけるリスク管理のアプローチとして新しくフレーミングされ、気候工学と気候移住(避難管理)の双方が「気候リスク管理」というより大きな枠組みで捉え直される傾向がみられることが分かった。
また、最終年度には、IPCCの特別報告書(special report)の歴史を紐解き、その上でIPCCの特別報告書のトピックとして気候工学(より具体的には太陽放射改変(SRM))が扱われることの是非およびその課題についての分析を進めた。これまでのIPCCの評価ではSRMはあまり大きく取り上げられていなかったが、気候のティッピングポイントの回避と関連づけて、IPCCの各作業部会を横断する重要なテーマとして今後取り上げられる可能性がある一方で、非常に論争的な対応策であるためにIPCCの評価プロセスそのものを過度に政治化(politicization)させ、機能不全に陥らせるリスクを伴う。この研究成果は、国際的な英文学術誌Climatic Changeに査読付き論文として投稿し、現在査読中である。
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