研究課題/領域番号 |
20K20056
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 啓之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任准教授 (50792488)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パレスチナ / イスラエル / 外交 / 中東 / 和平交渉 / 国際連合 |
研究実績の概要 |
第1年次(令和2年度)は、情勢の変化を追いながら、文書資料の分析と学会報告、論文の執筆を行った。特に、イスラエルと一部湾岸アラブ諸国の国交正常化が実現されるなど、本研究が着目した紛争当事者による外交戦略が大きく変化した1年であった。また、国際刑事裁判所(ICC)検察官によってパレスチナ暫定自治区内での犯罪行為調査の意向が示されるなど、国際機関と紛争当事国(者)の関係にも、変化が生じた。 こうした変化の背景には、2010年代に入ってからの情勢分析が不可欠である。例えば、2020年にイスラエルと国交正常化が実現されたUAEでは、2011年4月に国際再生可能エネルギー機関(IRENA)がイスラエルの参加を受けて成立し、その本部がUAEのアブダビに置かれたことが関係構築の弾みになったことが先行研究で指摘されていた。また、ICC検察官の判断が可能になった要因として、2010年代に入ってからパレスチナ暫定自治政府(PA)が進めてきた国連および国際機関への加盟申請があることも付記すべきだろう。 特に後者のPAによる外交戦略については、書籍『パレスチナ・イスラエル』(浜中新吾編、ミネルヴァ書房)の一章でその一端を論じ、外交面での取り組みについては学会報告も行った。そこでの議論を踏まえて、現在あらたに論文の執筆に取り組んでいる。また、メディアからの問合せにも社会貢献活動の一環として応じ、一部にはコメントが掲載されたものもあった。その他に、公開セミナーの開催や登壇、各情勢報告会での報告、中高教員が主体となっている研究会への参加など、国内での活動に注力した。その成果の一部は、第2年次(令和3年度)に、一般雑誌収録論文などの形で発表予定である。トランプ米政権からバイデン新政権への移行や、イスラエルでの複数回の国政選挙の実施など、注目すべき変化が続くなか、社会的要請にも応える形で研究を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際郵便サービスが断続的に停止することで半年ほどの遅れが生じているものの、アラビア語およびヘブライ語の文献資料の収集は、概ね予定通りに進んでいる。ただし、その分析においては、東京都に複数回の緊急事態宣言が発令されるなど、当初想定していなかった障害によって、十分な量・質に達したとは言い難い状態にある。このため、第2年次(令和3年度)も継続して文書資料の分析を行う。 第1年次(令和2年度)においては、イスラエルの軍参謀総長による回顧録を参照し、2000年代前半における脅威認識が「ジハード主義イスラム」に向けられていたことを明らかにした。その成果の一部は、『中東研究』(538号)に発表している。また、周辺アラブ諸国が「紛争当事国」としての立場を堅持していた1970年代におけるイスラエル軍参謀総長の回顧録を筆頭として、イスラエルの政策当事者の手による文書資料については、インターネットを介した不完全な形であったが精力的に収集を行った。その結果、当初から予測された通りではあるものの、1979年の対エジプト和平条約締結、1993年のオスロ合意署名を分水嶺として、軍関係者の対外脅威認識が変化している様子が観察できた。その成果の一部は、中東学会年次大会などで発表した。また、2000年代に入ってからの「対テロ戦争」の時代に変化があったことを、第2年次に国内学会で報告予定である。 一方で、パレスチナ暫定自治政府(PA)に関しては、伝統工芸品などを通した文化政策も包括する形で、第三国に対する外交的働きかけの検討を続けている点に注目した。PA第二代首相を務めたアフマド・クレイが、そうした伝統的手工芸品をどのように民族解放運動のなかで位置づけたのかを回顧した書籍などを筆頭に、こちらも文献ベースでの調査を継続し、第2年次にその成果の一部を発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第2年次(令和3年度)も現地調査が難しい状態が続くことが強く想定される。したがって、本年度も第1年次と同様に文書資料の収集と分析を中心に研究を遂行し、社会情勢の変化次第で現地調査を実施する。 収集済みのイスラエルおよびパレスチナの政策決定者による回顧録の分析を進めつつ、オンラインでアクセスが可能なアーカイブ資料や公式発表の収集および整理を行う。アラビア語およびヘブライ語の文献資料の収集も、引き続き実施する。分析においては、すでに収集済みのアラビア語による研究レポート(ベイルートのザイトゥーナ研究諮問センターが刊行した『パレスチナ戦略リポート』の各年版を中心とする)を題材として、パレスチナ暫定自治政府(PA)による国連および国際機関への外交的働きかけがどのように展開されてきたのかを明らかにしていきたい。また、COVID-19(新型コロナウイルス)のワクチン確保や電子システムの輸出など、イスラエルが新たな戦略外交を展開していることに着目し、これが本研究の着目する第三国との関係に作用した事例を整理し、分析に加えていくことを着想している。本研究の範疇から若干外れる部分もあるが、昨今の社会情勢による要請にも留意しつつ研究を実施する。 これらの成果については、国内外の学会で報告するとともに、査読付き論文などの形で発表していく予定である。また、第1年次と同様に社会貢献活動として、公開セミナーの開催や情勢研究会への登壇を積極的に実施し、研究成果の発信に努めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19にともなう制約により、当該年度に予定していた現地調査および国際学会への参加が実施できなかったため、第1年次(令和2年度)に次年度使用額が生じた。
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