研究課題/領域番号 |
20K20056
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 啓之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任准教授 (50792488)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パレスチナ / イスラエル / 外交戦略 / 中東 / 和平交渉 / 国際連合 |
研究実績の概要 |
第2年次(令和3年度)は、イスラエルでの総選挙の実施と新内閣の発足、5月のエルサレムとガザ地区周辺での武力衝突など、変化する情勢を追いながら、文献調査と学会報告、および論文の執筆を行った。特に、5月の衝突では、イスラエル国内の「混住都市」でユダヤ系住民とアラブ系住民のあいだでの衝突、集団暴行を含むヘイトクライムとも位置づけることができる事件が発生し、暫定自治区においてもパレスチナ暫定自治政府(PA)に対するパレスチナ人による社会運動が大きく展開されるなど、本研究が着目する紛争当事者それぞれの社会で過去にあまり例を見ない変化が生じた。一方で衝突によってイスラエルと湾岸アラブ諸国との外交関係には動揺が見られず、この点を本研究の着目する紛争当時者による外交政策の観点から分析する必要があるとの着想を得た。 本年は特に5月の武力衝突に関して、『世界』や『中央公論』、『歴史地理教育』など、一般刊行物での論考発表により現状への理解を深め、これを踏まえて学術論文の執筆に取り組んだ。また、社会貢献活動の一環として公開セミナーの開催や登壇、各情勢報告会での報告、NGOや市民団体主催のワークショップへの参加など、国内での活動に注力した。前年に引き続きCOVID-19による渡航規制や隔離措置を主な理由として現地調査は実施できない状態ではあるが、武力衝突中のSNSを通したイスラエル側、パレスチナ側によるフェイク情報の発信と拡散、その弊害などを分析するという新たな取り組みを始めた。また、文書資料としてアラビア語で刊行された各年の戦略レポートなどを参照し、文献調査を継続している。また、学会や科研研究会での報告も複数実施し、それらの報告内容をもとにした論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
渡航規制の緩和が想定よりも進まなかったことで、第2年次に予定していた現地調査は文献やオンラインによるものに切り替えざるを得なかった。また、国内の学術研究機関の多くが貸出や入館を引き続き制限していたこと、COVID-19(新型コロナウイルス)やウクライナ情勢を理由として国際郵便サービスに混乱が見られたことから、文献収集と調査が依然として十分な状態に達したとは言い難い。このため、第3年時(令和4年度)も文献資料の収集と分析を継続し、現地調査の機会に備える。 第2年次(令和3年度)においては、5月の武力衝突をきっかけに取り組むことになった一般論文執筆におおいて、本研究で着想した紛争当事者による政治外交という視点を一部に取り入れ、分析を行った。特に「ヘイトクライム」や「戦争犯罪」といった国際的に規範からの逸脱と看做される行為が相手側によって実行されたと訴えるSNSの書き込みを取り上げ、市民のスマートフォンを舞台に繰り広げられる情報戦とも言える動きを検討した。また実際にイスラエル国内で、「混住都市」と位置づけられてきたラムラやロッドなどの都市でユダヤ系市民とアラブ系市民の衝突や相互に対する暴力行為が起きたことで、イスラエル政府が自らの社会に対してどのようなメッセージを発し、それが対外関係に規定される様子を時系列的に観察するに至った。これらの現状分析による成果を本研究の主軸である文献調査、および現地調査と組み合わせて、学術論文の執筆を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第3年次(令和4年度)には現地調査が容易となることが期待されるが、COVID-19(新型コロナウイルス)変異株の出現など渡航が難しくなる可能性を踏まえ、文書資料の分析を中心としながら、短期間の現地調査を実施する。現地調査の計画と実施に際しては、所属研究機関の規定と渡航先国の法令を遵守する。 本研究の最終年度にあたる令和4年度は、研究成果のまとめと発表に取り組む。特に、第2年次に取り組むことになった衝突発生時のイスラエル、パレスチナ暫定自治政府両当事者による外交面での動向は、これまで文献ベースで蓄積してきた知見に照らし合わせることで、本研究の主目的に合致した成果となることが期待される。SNSでの発信など、当初の研究計画では範疇としていなかった動きも観察できたことで、より複眼的な分析が可能になる。また、本研究計画のなかで収集を進めてきたアラビア語、ヘブライ語文献の内容分析にも引き続き取り組み、紛争当時者それぞれにおける政策決定者が、特に外交面でどのような判断を行ってきたのかを明らかにしていきたい。 これらの成果については、国内外の学会で報告するとともに、査読付き論文などの形で発表していく予定である。特に一般刊行書籍に論考を発表することが予定されているため、本研究の成果をひろく日本社会に向けて発信することが叶う予定である。また、これまでの年次と同様に社会貢献活動として、公開セミナーの開催や情勢研究会への登壇を積極的に実施し、研究成果の発信に努めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
夏期および冬期に渡航調査を計画していたが、COVID-19(新型コロナウイルス)変異株の感染拡大により変更せざるを得なかった。最終年度(令和4年度)に現地調査を実施する予定であり、次年度使用額として計上した。
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