研究課題/領域番号 |
20K20065
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
牛久 晴香 北海学園大学, 経済学部, 講師 (10759377)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ガーナ / 技術の創出と普及 / 外来技術 / ローカル化 / 手工芸品 / アフリカ的発展 / 地場産業 / ボルガバスケット、かご |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ガーナのボルガバスケット産業を事例として、かご編み技術の創出と普及を進める人びとの実践を実証的に解明することである。 令和3年度はCOVID-19の世界的流行のため、当初予定していた現地調査を実施できなかった。そのため研究内容を若干修正し、新しいかご編み技術の創出に大きな影響を与えた、材料の置き換えの過程を跡づけることを試みた。 これまでの調査で、ボルガバスケットのかご編み技術の多様化が進んだのは1990年代以降であることが明らかになっていた。本研究では、その少し前に材料が地元の河畔に自生する野草ベチバーグラス(C.nigritanus)から、南部ガーナのアシャンティ州に生育するギニアグラス(M. maximus)へと置き換わった事実に着目した。 調査の結果、材料の置き換えの背景には、①バスケット産地におけるダム建設とベチバーグラス生育地の消失、②干ばつやナイジェリア在住ガーナ人の国外追放の結果、南部ガーナで深刻化した食糧危機、③食糧危機への対応策としてのキャッサバ栽培の拡大とキャッサバ耕作地におけるギニアグラスの繁茂、があったことが明らかになった。これらのできごとが時間的に近接して生じたことをきっかけに、アシャンティ州に移住していたバスケット産地の人びとが代替材料としてギニアグラスを送るようになったと考えられた。材料の変化はボルガバスケット自体を変え、新たなかご編み技術の創出と多様化の契機となったことも明らかになった。 今年度は北海道の植物繊維を用いた編組品とその製作技術に関する調査にも着手した。とくにアイヌの人びとが製作・使用してきたサラニップに注目し、材料となる植物と生育地の特性、植物に関する民俗知識、サラニップ編みの技術について基礎的な知識を習得した。今後はボルガバスケットとの比較も視野に入れ、技術の変化や継承に関する研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、COVID-19の世界的流行が収まらず、令和2年度に続いて当初予定していたガーナでの現地調査を実施できなかった。しかし、これまで収集したデータを活用しながら新たに文献調査を実施することで、ボルガバスケット産業において新たな技術が次々と創出されるようになる大きなきっかけとなった、材料の転換の過程を明らかにすることができた。当初想定していた調査項目ではなかったが、今年度の調査は現代のボルガバスケットにおける技術の創出と普及を考えるにあたって重要な歴史的経験を明らかにするものであり、結果として本研究の深化に大きく貢献したといえる。 北海道での調査も当初の調査計画には含まれていなかったが、継承者問題やかごを制作することの社会経済的・文化的・政治的意味の変化など、ガーナでの研究につながるいくつかの重要な論点に気づくことができた。 以上をふまえると、当初の計画通りではないが、研究自体はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は各国における出入国制限の緩和が予想されるため、令和2、3年度に予定していたガーナでの現地調査を夏と春に実施する。しかし、すでに現地調査が行えずに2年が経過しているため、当初の計画を網羅的に実施することは難しい。そのため、技術の創出と普及に大きな役割を果たしている「マスターウィーバー」と仲買商人の実践に焦点を絞り、彼らの実践に関する参与観察や聞き取り調査を実施する。 COVID-19対策として、ワクチン接種はもちろんのこと、ガーナ国・日本国両政府が求める入国時の自己隔離、自宅待機等を遵守する。また、すでに学生や教員をアフリカに派遣しはじめている京都大学や東京外国語大学の教員に情報提供を求め、ガーナ・日本両国にウイルスを持ち込まないよう細心の注意を払う。 現地調査がかなわない場合には、日本における調査を実施する。令和3年度に開始したサラニップの技術の変化や継承に関する調査を発展させる。また、北海道のかご作家・かご職人に協力を仰ぎ、すでに開発経緯や技術的な改変過程が一定程度明らかになっているボルガバスケットのかご編み技術について、なぜこのような改変経緯をたどったのか、構造的なポイントや製作者目線での評価を尋ねる。これにより、現地の人びとが行ってきたローカルな実践を言語化することをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の世界的流行により、当初予定していたガーナでの現地調査を実施できず、旅費の執行額が計画を大幅に下回った。次年度はガーナへの旅費に加え、令和3年度に開始した日本での調査のための旅費として執行する予定である。
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