研究課題/領域番号 |
20K20095
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 麻奈 名古屋大学, 男女共同参画センター, 特任助教 (60828185)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ジェンダー / 性暴力被害者支援 / セックスワーカー / オセアニア / 太平洋小島嶼国 |
研究実績の概要 |
初年度は、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、研究活動の実施上多くの制限があった。特に、研究の対象地域であるニウエを含む、対象地域への渡航および現地調査の実施が不可能であったため、研究計画とアプローチの方法を大幅に見直す必要があった。そこで、ニウエおよび太平洋の島嶼地域にとどまらず、性暴力被害女性保護や、さらに関連する職業・ジェンダーに関する課題についての実態理解と考察を深めるため、日本国内で実施可能な以下の研究活動を実施した。 第一に、「性暴力被害者」を女性だけでなくすべてのジェンダーに対象を広げ、日本国内での現行の保護制度、法制度、執行体制他、関連する課題やサポート体制(NPO団体の活動などを含む)についての実態調査を行った。具体的には、性暴力被害者の中に多い職種である、セックスワーカーの方々や、厚生労働省によるサポートプログラムの実施団体へのインタビューを実施した。それによって、現行法制度と、それに伴う実態に対する評価について考察した。この問題については、法制度とスティグマおよび対象当事者のアイデンティティ形成過程との関連性について論文を新たに執筆することとした。また、これらの日本国内の現状を通した、ターゲットグループの社会的地位と課題についての理解は、今後本研究の対象地域であるニウエや太平洋島嶼国の現状について比較検討するうえで非常に有意義であった。 第二に、対象地域であるオセアニア・太平洋島嶼地域に関連する資料収集を、日本国内で実施するとともに、関連する書籍を海外から取り寄せるなどして、現状の理解に努めた。特に、日本国内最大級の、オセアニア関連資料の展示と蔵書のある国立民族学博物館への訪問と資料収集は、大変意義のあるものであった。ほかに、日本オセアニア学会およびオーストラリア学会の研究会参加を通じて、対象地域の社会的実態についての理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したように、2020年度の活動については、新型コロナウィルスの影響によって、予定していた海外調査がすべて実施できていない状況にある。したがって、全体としては、当初の予定に比べて実現できていない項目が多く、総じて遅れている。そのため、今年度は「日本国内で実現できること」に集中して、計画を変更しつつ実施していった。 2020年度は初年度であったということもあったので、性暴力被害女性の保護および関連する法制度とシステムを考察するにあたり、前提となる知識と状況の理解などを日本国内のリソースや文献を通じて行うことに集中した。ほかに、アプローチの視点を拡大したことによって、関連する新たな課題について発見することができた。そのため、今後の対象地域(にニウエおよび太平洋島嶼国)への比較分析・調査の材料とできるという点では大変有意義であった。特に、性暴力被害者という文脈を、女性だけではなく(全体として、被害者は圧倒的に女性が多いが)、男性やすべてのジェンダーとして考える点、さらに日本国内の事例からも男性と女性とでは、被害者保護の状況に深刻なギャップあるという点に気づけたことは、今後の考察を深めていくうえでも役立つ点であると考えている。 その他に、2020年度は、インタビューの実施や研究会への出席などについても、直接的な参加や対面での実施ができなかった。そのため、これらの活動について、今年度はほとんどがオンラインでの実施であったために、急遽必要な機材(カメラやヘッドセットなども含む)を購入し、環境を整えた。これらの環境を初年度に整えられたことによって、次年度以降の海外調査の代替手段として活用できるという点では、前進であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の最大の課題としては、「いかにして海外実施調査を行うことができるのか・もしくはそれと同等の質的データを入手することが可能か」という点である。今後の計画および、実施方法についても、新型コロナウィルスの世界的な感染状況に大きく左右されるという点は現時点では否定できない。特に、対象地域であるニウエや太平洋島嶼国は、脆弱な医療体制と島嶼地域であるという地理的特殊性から、2020年早々に国家全体のロックダウンを実施しており、渡航することが現時点では極めて困難であり、また先行きへの見通しも立たないことが実態である。 そこで、検討すべき課題としては、①現地調査ができないという点を、オンラインでの調査で代替できないか(しかし、現地国のインターネット環境及びインフラの確保が最大の問題であり、またインタビュー対象者を適切に決められにくいという点から結果にバイアスが生まれないかということも懸念している)、②日本国内にいるニウエ人や太平洋島嶼国出身者にアプローチできないか、という点である。これらの実現可能性を検討し、また既存の人的リソースを活用したうえで、実現可能な方向に手法を柔軟に変更しながら検討していきたい。 他に、2020年度に代替的手段として実施してきた、日本国内の同問題の現状についても、このまま研究として進めて論文の執筆を行うとともに、ニウエの調査が可能になったときに比較対象として生かしていけるように考察を深めていく予定である。 しかしながら、太平洋島嶼地域に関する社会情勢・実態理解については、やはりオンラインですべてを実施するということには、研究成果を上げていくうえで限界があるとも考えており、この点をどう克服できるのかという点を今後の最大の課題として、注意しながら検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に引き続き、小島嶼開発途上国におけるジェンダーに関する法整備状況・国際的地位に関する文献調査および実施調査を行うため、引き続き計画通りの予算が必要である。特に、2020年度新型コロナウィルスの世界的感染拡大の影響で実施できなかったフィールド調査等も含めて、2021年度以降に情勢を見つつ実施していく予定であり、これらの活動は研究成果を上げていくうえで不可欠である。 具体的には、①ニウエを含む太平洋島嶼国地域におけるジェンダーおよび女性の地位に関する法制度性暴力被害者の救済に関する実務状況および国際法上の立場等に関する文献調査、②フィールド調査(ニウエおよび周辺国であるクック諸島とニュージーランド)を行う。フィールド調査に関して、ニウエにおいては、コミュニティリーダー・現地NGO・政府関係者・法律実務家・援助従事者・女性コミュニティを対象としたインタビュー調査を行う。また、周辺国としては、ニウエが自由連合国協定を結んでいるニュージーランドおよび、ニウエと同じくニュージーランドの自由連合国であるクック諸島の2か国をターゲットとし、ニウエ人をサポートする政府関係者・NGO関係者・研究者、さ援助従事者に対してインタビューを行う。ただし、新型コロナウィルスの感染拡大状況も十分に考慮し、オンラインを含めた代替措置の検討もしつつ、柔軟に対応する。
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