研究課題/領域番号 |
20K20101
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鳥山 純子 立命館大学, 国際関係学部, 准教授 (10773864)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エジプト / 「1月25日革命」 / ジェンダー / セクシュアリティ / 恋愛 / 不確実性 |
研究実績の概要 |
2020年度は、当初予定していたカイロでの現地調査がCOVID-19の影響によって実施が不可能になったことを受け、予定を変更し、2011年に起きた「1月25日革命」以降のエジプト社会を扱ったエジプト民族誌、並びに「1月25日革命」を直接扱った文献の収集に努めた。文献の選定にあたっては、「1月25日革命」を社会運動として扱った文献のみならず、文学やコミックといった人々の感情的変化に焦点を当てたものまで含めてできるだけ広く収集することとした。 また、個人的な革命経験についての論稿を日本語で執筆し(日本語の論集に採録予定)、さらにその内容を英語化して今後の海外発表の準備を行った。論文の中心としたのは、多様な社会規範の束を激しく変化する社会情勢の読みに位置づけ「適切な行動」を探る人々の投機的行動と、不安、迷い、困惑と、それらと共存する、他者攻撃をその一部に含む安定を求めた行動様式である。 こうした研究活動の意義は、主に、人々の心性の変遷として2011年以降のエジプト社会の動きを読み取るという本研究のアプローチが、どの程度独自性・新規性を持ちうるのかという点について最新の海外研究動向に照らして検討した点にある。暫定的な結論としては、アフェクト理論をはじめとして、性愛やセクシュアリティといった高度に社会化されながらこれまで社会問題として枠づけられてこなかった議論が盛んにおこなわれるようになっている傾向が進行しつつも、未だそうした議論が革命との接合の中で語られていないと結論づけた。こうした研究のアプローチは、先の読めないCOVID-19以降の社会的動きを追う上でも重要になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年は、2011年の「1月25日革命」から10周年を迎える節目となる年であり、その動きを直接観察するためにも現地調査が重要な位置づけを占めていた。この間、「1月25日革命」はシシ政権のもとで犯罪化されてきた歴史もあり、この節目でどのようにその出来事が扱われるのか、また当時のことを人々がどのように総括するのかを観察することは、社会変化を考察する上でも重要な局面であった。その動きを実地で観察できなかったことで、当初の予定に大きな変更が迫られた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年からのCOVID-19の世界的パンデミックは、エジプトにおいても、社会的関心を、2011年以降の動きからCOVID後の展開に大きくシフトさせた。すなわち世界的なコロナ禍は、エジプトにおいてもこれまでの価値観を総括し、より個人的なナラティブを社会が求める時代へと突入を促したと解釈できる。さらにこの間、とりわけ人類学におけるアフェクト理論等への関心の高まりを背景に、個人的ナラティブとそれを構成する心性には学術的に大きな注目が集まるようになっており、本研究のアプローチの意義はますます高まっている。今後は、ウェブソースやウェブでのコンタクトも含めたデジタルエスノグラフィーも視野に入れつつ、「個人的なストーリー」をより重視する形でのデータ収集にシフトし、必ずしも渡航、現地滞在ではない形での「場の共有」のもとに研究を進める。
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