本研究では、チャージブリーダー(イオン多価化装置)の高効率化のため、「単振動イオン高周波共鳴」という新しいアイデアを利用したイオン出力機構の実証機を開発し、性能向上に努めた。「単振動イオン高周波共鳴」では多価化するイオンを二次関数型の静電ポテンシャルで捕獲し単振動運動をさせる。この単振動運動は捕獲イオンの電荷質量比に依存した周波数を持つため、要求する価数の周波数でポテンシャルを振動させることにより、要求する価数のみをチャージブリーダーから取り出すことができる技術である。従来型チャージブリーダーの価数変換効率は 約20% 程度だが、「単振動イオン高周波共鳴」法は原理的に100%の価数変換が可能であるため、生成数の少ない不安定核ビームを利用した新しい原子核物理実験の領域を開拓できる。 2021年度は装置のシステム改良と性能向上に努めた。2020年度の実験から既存の測定システムでは精度を下げた測定になっているという事が示唆されていたので、本年度は先ず測定システムの改良を行った。主にはFPGAと光通信を使用した高圧環境下におけるタイミングシステムの改良である。これまでの実験ではシステムが不安定であり実験再現性が悪く系統誤差が大きかったが、今回の改良により大きく改善することができた。また、「単振動イオン高周波共鳴」法はポテンシャルの揺らし方によって大きく性能が変化するという知見が得られていたため、2021年度の実験ではより性能が向上する条件をシミュレーションと実験により調べた。その結果、要求する価数のみを取り出す分解能は約2倍にすることに成功した。これらの結果と、チャージブリーダー完成後に実装し開発を行う予定のビームリサイクル技術についてを日本物理学会第77回年次大会にて発表した。
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