2022年度もX線自由電子レーザー施設SACLA利用研究課題申請が承認され、2023年1月に軟X線ビームラインにて実験を行った。今年度の実験ではSACLA実験スケジュールの都合により、パルス幅8 fsの数サイクルパルス(最大パルスエネルギー0.5 mJ/pulse)ではなく、パルス幅30 fs(最大パルスエネルギー7 mJ/pulse)の近赤外レーザーパルスを利用した実験を行った。内部圧力が10^4から10^5 Paのヘリウムガスセル中に軟X線パルス(光子エネルギー60 eV)および近赤外パルスを照射し、ヘリウム2s2p準位付近の吸収スペクトルの過渡的な変化を測定した。近赤外パルスの集光強度が10^13から10^14 W/cm^2の時には明確なスペクトル変化は確認できなかったが、10^15 W/cm^2程度と極めて高強度な時には近赤外パルスの照射によるスペクトルの明確な変化を確認することができた。本来、ヘリウムに軟X線パルスを照射すると2s2p準位へ電子励起される。その吸収スペクトルには自動電離状態との共鳴によりFano構造と呼ばれる特徴的な構造が現れるが、近赤外パルスの照射によるイオン化により、Fano構造が消失したことを示していると考えられる。また、実験結果からFano構造の回復は300フェムト秒以内に生じていることがわかった。平均自由行程からはヘリウムの衝突は160 ピコ秒程度の時間スケールで生じると予想されるため、イオンから中性原子への回復は原子衝突位以外の過程で生じていることが予想される。これらの過程を明らかにするため、実験データの詳細な解析と考察を進めている。
|