本研究では、“製品やサービスを使用する過程でユーザーが介入できる余地”を「余白」と捉え、それらの余白を製品デザインに組み込むことで、利便性の追求とは異なる価値である「不便益」を生み出すことを目指している。最終年度では「余白」と「カスタマイズ」の違いを事例分類により明らかにするとともに、「余白」の設計が、モノに対する愛着を生み出すか否かの検証を行った。 事例の抽出では、「影山友章:製品の使用過程における“余白”を考慮したデザインワークの実施,デザイン学研究,68 巻 4 号,p41-46」に記した余白の定義に従い、15個の余白を備えた既存製品を抽出した。そして、それらを“心理的労力”、“物理的労力”、“アウトプットの幅”の三つを軸にしたダイアグラムにプロットすることで,「カスタマイズ」と「余白」の違いを明確化した。これらの分類研究から、介入によって変化するアウトプットが一定数の場合は「カスタマイズ」、無限に近い広がりを有する場合は「余白」と、本研究における余白とカスタマイズの区分を明確化した。 次に、新たに定義した余白を備えた事例を分析することで、「余白への介入方法」を整理した。その結果、余白への介入方法は「叩く・曲げる」「貼る」「書く・描く」「塗る」「縫う」「組む・付ける」「切る・ちぎる」「削る・磨く」の8種類が抽出された。 最後に,整理した余白への介入方法から「削る・磨く」を抽出し,“ユーザー自ら紙やすりで好みの形状に削ることができる木製しゃもじ「余白を残したしゃもじ」”を創出した。そして,余白を残したしゃもじを使った評価実験を実施し,自らの手で好みの形状に削るという余白を組み込むことで,従来品と比較して愛着を得る傾向が強くなることを確認した。
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