研究課題/領域番号 |
20K20145
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岩崎 純衣 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (60866820)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 脳磁計(MEG) / メタ認知 / 行動指標 |
研究実績の概要 |
メタ認知とは自身の認知状態を認識し行動を調節する認知機能のことであり、この認知機能は文章読解の熟達度や数学的問題解決力の向上などに寄与していると考えられている。本研究の目的は、自閉症スペクトラム症の幼児 (ASD児) がもつメタ認知の認知的・神経的特性を、定型発達児 (TD児) と比較することにより明らかにすることである。そのためASD児およびTD児を対象に行動指標を用いたメタ認知課題を行わせ、課題成績にどのような相違点があるかを検討すること、さらにその際の神経活動について小児用に開発された脳磁計 (MEG) を用いて検討する。ASD児のメタ認知特性を明らかにすることで、ASD児の就学後の学習面における支援ための提言を行うことを目指す。 交付申請時には、令和3年度にASD児とTD児におけるメタ認知の正確さに関する行動実験およびMEG測定を行うこと、さらにASD診断のための検査(ADOS-2・DISCO)や認知機能の検査(K-ABC)といった発達検査を併せて行い、それらの心理検査と行動指標との関係を検討することを予定していた。しかしコロナウイルス感染拡大を受け、昨年度に引き続き実験参加児を広く募集する実験の実施が困難となり実験データを収集することができなかった。次年度はコロナウイルス感染状況をみながら、実験参加者が安心して参加できる環境を整え、データ収集を開始する予定である。 令和3年度は当初予定していた研究はできなかったが、これまでに収集した発達検査や生活アンケートをもとにASD児の感覚と睡眠の関連について分析した。その結果、ASD児の睡眠の質には触覚感覚特性と強い関連があることが明らかとなった。本結果はASD児のメタ認知特性を直接示唆するものではないが、メタ認知のモニタリング対象である感覚情報処理に関係するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では令和3年度末までに就学前児のメタ認知行動に関する行動および神経科学的データを収集する予定であったが、コロナウイルス感染拡大を受け、実験参加者を招いて行う実験を実施することができなかった。現在新しいデータを収集するまでに至っていないが、これまでに収集した発達検査データを分析することで、ASD児の感覚特性と睡眠の関連について明らかにすることができた。また共著者として国際論文を4本刊行したことも評価に値する。研究は当初計画からやや遅れているが、感染状況が落ち着き次第、実験を開始する準備は十分整っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度以降は、コロナウイルス感染状況を踏まえつつ感染防止策に十分に配慮しながら、行動実験を開始する。参加児には見本刺激と比較刺激の同異判断を行わせる。まず画面に見本刺激を3秒間提示し、その後比較刺激を提示する。比較刺激は、提示開始時には粗いモザイクがかかっており物体の判定が困難だが、時間経過とともに徐々にモザイクが細かくなっていき、物体判定が容易になっていく。参加児が「解答ボタン」を押すことで、同異判断のテストに移行する。同異判断が正しく行われた場合はポイントが加算され、さらに解答ボタンを押すタイミングが早ければ早いほど多くのポイントを得ることができるが、同異判断を間違えた場合は減点される。つまり本課題で高得点を得るためには、参加児は物体が何か“分かった”ことを正確に認識 (メタ認知) し、適切なタイミングで解答ボタンを押さなければならないのである。この課題において、同異判断成績や「解答ボタン」を押すタイミングをASD児とTD児で比較し、ASD児のメタ認知の正確さについて行動実験から考察する。課題の妥当性を確認したのち、MEG装置内で同様の課題を行う。MEGで得られた神経活動データは、その高い時間分解能を活かした複雑ネットワーク解析を行う。また、ASDはその障害の程度や現れ方にも大きな個人差があるため、課題以外にASD診断のための検査(ADOS-2・DISCO)、認知機能の検査(K-ABC)といった発達検査を併せて実施し、行動指標および神経活動との関係を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大を受け、実験を実施することができなかったため次年度使用額が生じた。これらについては、実験データの記録媒体や実験者への謝金、および脳磁計の使用に必要な液体ヘリウムの購入にあてる予定である。
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