研究課題/領域番号 |
20K20156
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
孟 憲巍 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (50861902)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会的優位性 / 乳幼児 / 発達科学 / 心理学 / 社会性 |
研究実績の概要 |
円滑な社会生活を送るためには、周囲の人間関係を認識していなければならない。ヒト社会では特に自分と他者や他人同士の優位性関係を考慮したうえで行動することが重要だが、優位性関係を認識する能力がどのように形成されているかについてはほぼ知られていない。本研究は、社会的・言語的経験の少ない乳幼児を対象とした行動神経科学的な検討を通して、優位性関係の認知の発達的起源および社会的行動に与える影響の解明を目指す。 今年度では、研究計画の予定通り、乳幼児が優位性関係を評価する際に用いる手がかりについて実験的に検討した。また、優位性関係評価の神経的基盤や心理メカニズムを特定する今後の実験的研究の方法論を構築するために、既存の実験データを解析・考察した。 前者については、(1)高い身体能力や心的能力を持つ・持たない個体間の優位性関係を乳幼児がどのように評価するかについて検討を進めてきた。身体能力の研究は生後半年と一歳半の乳児を対象に実施した。心的能力の研究は小学校入学前の幼児で検討してきた。いずれもデータが部分的に収集され、今後の成果が期待できる。(2)幼児は個体の声の高低に基づいて優位性を評価するかどうかについてウェブ調査を実施し検討した。その結果、成人と同様に幼児も低い声の持ち主に優位性を帰属することが明らかになった。また(3)幼児が集団間の優位性についてどのように評価しているかについて、集団メンバーの動きの同期性という視点から検討した。同期した動きを示す集団とバラバラの動きを示す集団の刺激を観察した後、幼児は前者の方が勝負にかつと予測することから、幼児は同期性と集団の優位性を結びつけていることがわかった。 後者については、幼児を対象にfNIRSを用いた実験のデータ、それから幼児の記憶について検討した研究のデータを解析・検討し、それぞれの方法論が本研究課題で実用可能かどうかについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は順調に進展している。研究計画としては、今年度の目標は「乳幼児における優位性関係の評価およびその手がかりを探る」こと、および「発達初期における優位性関係評価の神経的基盤を特定する」ための方法論を構築することであった。今年度の実績は、上記の点を実現できたものと考えている。 前者については、乳児を対象とした研究を実施し、複数の研究成果が得られた。現在は国際誌に投稿し査読を受けているところだが、いずれも期待できるものと考えられる。例えば、1歳児が「超自然的な力をもつ者」に優位性を帰属する研究成果、そして幼児は「同期する集団」に優位性を帰属する研究成果を得て、それぞれ論文化した上で国際学術誌に投稿した。また、乳児が「高い身体能力をもつ者」に優位性を帰属するかどうか、幼児が「声の低い者」に優位性を帰属するかどうかについて実験を行い、それぞれはデータ解析中である。 後者については、乳児を対象とした神経科学的研究の方法論を構築するために、まずは幼児を対象にfNIRSを用いて行った実験のデータを解析し、論文として発表した。そして、幼児を対象としたゲーム形式の実験的研究の方法論を構築するために、予備調査として「集団凝集性と集団間優位性関係」のパイロット実験を実施し、データを解析した。 上記の研究成果は、国際学術誌(例えばNeuropsychologia)をはじめ、様々な場(例えば日本心理学会)で発表してきて、複数の受賞も実現した。総合的に見れば、今年度の研究活動は研究計画通りやそれ以上に進展したものであった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗状況は研究計画通りのものであった。したがって、今後も計画を変更せずに進めていく予定である。ただし、新型コロナウィルス感染症の影響で、乳幼児の対面実験の実施が難しくなってきた。この状況下では、報告者はオンライン調査などを駆使することで研究を進めることに努めてはいるが、実験状況を統制しにくい点や解答の信ぴょう性を担保しにくい点などがあり、対面実験ほど効率よくデータを収集することができないと考えられる。感染症の状況が今後も改善されない場合は、本研究計画の実施に大きく悪影響が出てくる可能性が極めて高い。その場合は、研究費の使用計画の変更(例えばオンライン調査に予算を多く配分するなど)が必要となるだろう。また、研究生活が得られるまでの期間も、計画より遅くなる可能性が高い。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、日本国内でも2020年度中複数回緊急事態宣言が出された。この影響を受けて、本研究計画で予定している乳児対象の対面実験は実施中止とせざるを得ない時期も長かった。実験実施の回数が少なくなったために、当初予定していた謝礼の予算は十分に消化できなかった。それに、感染拡大防止のために研究打ち合わせの出張なども中止となった。その分の予算も十分に消化できなかった。2021年度では、新型コロナウイルスの感染拡大状況に関する政府の方針や各自治体の規定に従いつつ、なるべく効率よく研究計画を遂行するように努めたいと考えている。当該助成金については、当初予定していた用途に使用する予定である。
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