研究課題/領域番号 |
20K20164
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
太田 岳 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (30790571)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光断層撮像 / ナノ振動 / 蝸牛 / 内耳 / 有毛細胞 |
研究実績の概要 |
本年度は、生きたマウスの感覚上皮に生じるナノ振動が、レーザー照射位置においてどの周波数域で最もよく振動し、それがどのように聴覚に関連するか、そして振動が複雑な細胞複合体のどこで効率的に生じているかを模索するため、機器の改良に着手した。 第一に、光断層撮像装置の光軸調整を再度見直し、最適なレーザー照射条件を設定した。その環境下の元、マウスの体温を維持できるよう、温度環境も整備し、健常な聴覚を保ったままの計測ができるように機器を最適化した。 本年度は、レーザースポットをマウス内耳蝸牛の基底部に絞った。この部位には正円窓と呼ばれる透明膜構造があり、そこにレーザーを通すことで奥にある感覚上皮に光を照射することができた。その他の部位は骨に覆われており、現有の機器では骨の反射による光損失を克服することは困難であった。蝸牛の基底部は、30 kHz以上の高い周波数で振動することが報告されているため、音刺激を30 kHzから50 kHzまでの範囲で与え、その際の振動を計測した。その結果、至適周波数は、動物個体にも依存して5 kHz相当の変動もあるものの、おおよそ40 kHz帯であることがC57BL/6Jマウスにおける実験で見出された。おおむね、感覚上皮帯の上部の振動振幅が下部の細胞外基質層構造よりも大きく振動することが示唆された。本実験は、深い手術手技が必要であったものの、振動計測の前後でマウスの聴覚は担保されていた。さらに、光断層撮像法によるin vivo感覚上皮帯立体撮像にも着手した。動物の生前死後において、感覚上皮帯を構成するトンネル構造やその周囲の形状が変動することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の目標であった、マウスの振動の至適周波数を求めるための計測基盤は完成した。しかし一方で、マウスの低周波聴覚を担当する蝸牛頂部への光照射条件を完備なものにすることは達成できなかった。しかしながら、時に50 kHz相当で振動するマウス基底部感覚上皮帯振動を実測した例は海外を含め、1、2例しかなく、特に遺伝改変モデル動物として多用されているこの種の動物の振動計測に成功したことは、今後の聴覚研究において重要であると考えることができる。以上の理由で上記の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
この度明確化された、蝸牛への光照射条件を見直し、最適化する。そして、広範な周波数における音刺激に対して、マウスの感覚上皮帯がどのように振動し、例えば難聴時にその振動がどのように変遷していくかを考察する。得られる実験データから本質的な蝸牛生理機構を明らかなものとし、新規な治療戦略につなげるための情報抽出を目標として設定する。
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