医療の発展により,多くの病気の治療法が開発されている一方で,がんは我が国における死因の第1位である.これに伴って抗がん剤の開発も進んでいるが,抗がん剤によるがん治療には大きな副作用が伴う.このため,最近は抗がん剤を患部に対して優先的に届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)が開発されてきた.そこで,機械振動によるメカノセラピーに注目して,新しい概念のDDSの開発を目指した.すなわち,がんの罹患部にのみ振動を付与し,振動にさらされた部位において抗がん剤の薬効を向上できると考えた.このコンセプトの妥当性を示すため,in vitroにおいて細胞への機械振動の付与により抗がん剤の薬効を向上させることを本研究の目的とした. コロナ禍により,活動が制限され特にデバイスの作成において大きな予定変更を余儀なくされたが,kHz帯の線形機械振動を細胞に対して照射可能なデバイスを開発した.このことにより,機械振動によって薬効が向上するというコンセプトを確認した. 特に,本年度は,作製したデバイスを用いて細胞実験を繰り返し信頼性の高い結果を得ることに注力した.その結果,特定の機械振動によって抗がん剤であるマイトマイシンCによって誘引される細胞死の割合が統計的優位に上昇することを明らかにした.一方で,超音波単体による細胞死は発生しないことを確認している.さらには,マイトマイシンCを代謝する際の酵素の量が,機械振動によって上昇することを明らかにした.
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