本研究は、自己組織心臓弁グラフトの生体皮下形成とその臨床応用に向けた最適な弁形状の確立を目的として、以下の課題に取り組んだ。 1) 弁グラフト形成に用いる「鋳型」の設計法の確立 弁尖が開放状態で形成されるOpen鋳型と、閉鎖形状で形成されるClosed鋳型の2つの形状を検討した。Closed鋳型については、弁膜厚や弁尖長など5つの設計パラメータを用いた弁形状モデリング手法を開発し、ヤギでの皮下形成実験に用いた。3か月後に摘出したClosed弁の弁尖組織の形成率は、鋳型の改良と複数回の動物実験を実施したものの75%と低く、弁膜厚も設計値と乖離する課題が残った。一方、Open弁鋳型の設計では3つのパラメータによる三次元モデリング手法を確立し、同様の期間の埋入実験で約92%の形成率を達成し臨床応用に向けた第一選択とした。 2) グラフトの評価 Open弁の模擬循環回路による血行動態評価を行い、既存生体弁に対して逆流率は劣るものの、圧較差特性に優れることを示した。次に、計算機による構造解析を進展させ、逆流の要因解析を行った。グラフトの皮下形成組織体の応力-ひずみ特性を調べ、Mooney-Rivlinによる非線形モデリングを行い構造計算に用いた。Open弁の弁尖部位に血圧相当の圧力を加えて弁の運動を観察した結果、弁閉鎖時に特に交連部付近で十分な弁の接合がなされていない領域があり、逆流特性の悪化要因であると考えた。最終年度には、交連部の接合領域を増やすために交連部付近の弁尖形状をS字型とし、その曲率半径をパラメトリックに調整可能なモデルを開発した。計算機解析により交連部付近の接合を阻害している組織体の曲げと圧縮応力を低減し、逆流特性の改善に寄与することを示した。また弁尖組織の引張応力を評価し弁尖全体にわたって十分な強度をもち、移植時の強度安全性が担保されることを明らかにした。
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