研究課題/領域番号 |
20K20180
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牧 功一郎 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (90849233)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クロマチン / 1本鎖DNA / DNA損傷-修復 / 細胞老化 / トルク |
研究実績の概要 |
クロマチンは,細胞分化・細胞老化・細胞増殖など種々の細胞機能の発現において時空間的に制御される.近年の研究において,クロマチンが力を感知するメカノセンサとしての機能を有すること,ひいては,力学負荷に対する生体組織の機能的適応に重要であることが示唆されているが,クロマチンが力を感知する原理は未だ解明されていない. 本研究では,クロマチンに存在するナノ転写装置の構造変化およびDNAのナノスケールの曲率の変化に着目し,それらの細胞・in vitro 再構成により,以下の仮説を検証している. (1)力のもとでナノ転写装置が構造変化する.(2)力のもとでDNAの曲率が変化する. 本研究が達成された暁には,機械的な力を利用して細胞の運命決定を行う「メカノジェネティクス」分野の創設,および,機械的な力が老化・がん化に及ぼす影響の解明など,高齢化社会を支えるバイオメカニクス・再生医工学の研究において大きな波及効果が期待される. 令和2年度の検討において、申請者は、細胞内におけるゲノムDNA自体のありのままの動態を理解するため、1本鎖DNAの細胞内観察手法の提案、および、ゲノムDNAの損傷-修復プロセスに着目し、研究を進めた。さらに、ゲノムDNAの構造変化が生体組織の恒常性に及ぼす効果を理解するため、その準備として、老化組織を対象とした、組織内部の微視的構造観察を行った。さらに、ゲノムDNAの構造変化が細胞により機能発現を導くメカニズムを探求するため、DNAに生じるトルクに着目し、その遺伝子発現への効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当研究を進める上では、組織から細胞・分子にいたるマルチスケールのそれぞれの階層における力の効果を、クロマチンの構造変化に着目し、包括的に理解する実験・解析手法を発展させる必要がある。 組織・細胞スケールの検討においては、個体の老化が組織の恒常性を低下させるメカニズムとして、内部の細胞の力への応答性が重要であるとの仮説を立て、その第一歩として、細胞の力感受性に影響を及ぼすと考えられる細胞形態および周囲の微小構造に着目し、検討を進めた。その結果、老化に伴い、細胞の力感知に重要な細胞内小器官の構造がリモデリングしていることを見出した。今後は、この細胞内小器官に着目し、細胞による力感知との関連を探る予定である。 細胞・分子スケールの検討においては、DNAの損傷‐修復過程におけるクロマチン構造変化に着目し、原子間力顕微鏡および全反射顕微鏡を活用して検討を行った。その結果、DNA損傷により合成される高分子鎖がクロマチンの構造変化を誘導する可能性が示唆された。今後は、DNA損傷に応じて合成される高分子鎖とクロマチン構造変化の関係を詳細に理解するため、1分子レベルのライブイメージングも実施する予定である。クロマチンの構造変化を理解するには、ゲノムDNAそのものの物性および力学的挙動を理解する必要もある。そのため、本研究では、独自の染色技術の開発を進めており、1本鎖DNAの細胞内観察に成功している。今後は、その妥当性の検討およびクロマチン構造との関連を探る予定である。さらに、ゲノムDNAの力学的挙動を理解するため、細胞の核内で生じるトルクに着目し、DNAに生じたねじれが遺伝子転写を制御する可能性を検討した。 以上の検討をもとに、組織から分子にいたるマルチスケールの観点に立ち、細胞が力を感知する本質的なメカニズムの解明に挑んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究代表者が有する、高分子鎖の力学的挙動解析、1分子ライブイメージング技術、分子生物学的実験技術を複合させ、マルチスケールのメカノバイオロジー・バイオメカニクス研究をさらに進展させる予定である。 「老化が細胞の力感知に及ぼす効果」に着目した研究ストリームにおいては、細胞と組織微小環境との相互作用に着目し、特に、細胞の力感受性が制御されるメカニズムについて、重要なメカノセンサ分子を取り上げ、検討を進める予定である。 「DNAの損傷‐修復過程におけるクロマチン動態」に着目した研究ストリームにおいては、DNA損傷に応じて合成される高分子鎖とクロマチン構造変化の関係を詳細に理解するため、1分子レベルのライブイメージングとAFMによるクロマチン動態イメージングが複合した実験を実施する予定である。 「細胞核内における一本鎖DNAの観察」を目指す研究ストリームにおいては、遺伝子転写・複製などとの関連について、種々のインヒビターを用いるなどして、妥当性を検証する予定である。細胞核内で二本鎖DNAがほどけた状態を検出できるアドバンテージを活かし、DAPIやHoechstなどで二本鎖DNAを見るのではなく、重要な生物学的現象が生じるプラットフォームとして一本鎖DNAの観察を行っていこうというパラダイムシフトを起こすことを目標とする。 「ゲノムDNAに生じるトルクが遺伝子転写に及ぼす効果」に着目した研究ストリームにおいては、DNAに生じるトルクに摂動を与える実験を行い、遺伝子転写パターンの短時間(数分程度)のダイナミクスに迫る予定である。 今後は、上記の研究ストリームをそれぞれに進めていく一方、それらが複合した研究コンセプト・メカニズムの提案を目指す。
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