研究課題/領域番号 |
20K20187
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
横山 奨 大阪工業大学, 工学部, 講師 (30760425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Organ-on-a-chip / 筋オルガノイド / 神経オルガノイド / 薬効評価 / 収縮力 / Neuromuscular junction |
研究実績の概要 |
近年、新薬開発コストの急激な増大が問題となっており、早急な技術革新による新薬開発コストの低減が求められている。有望な薬物分子が細胞に与える変化を迅速かつ正確に評価する技術は、新薬開発プロセスにおいて極めて重要である。これまでは、動物試験が薬物動態を予測する上で重要な役割を果たしており、人体に対する副作用や薬効毒性の評価を担っていた。しかし、動物試験は定量性に劣る面があり、より定量的かつ迅速に薬効評価が行える細胞アッセイツールが求められている。そこで申請者は、神経・筋疾患を対象とした創薬過程への細胞アッセイツールとして、神経オルガノイドと筋オルガノイドを接続したNeuromuscular Junction Model-on-a-Chipを開発する。最終的には、本研究の成果を活かした新たな薬効評価技術を確立し、新薬開発コスト削減に貢献することを目的としている。 今年度は、評価系にあたる筋オルガノイドの収縮力定量評価技術の確立や、評価時期の最適化・再現性の確認などを実施した。定量評価技術は、収縮力によるPDMSピラー先端部の変位で評価する手法を用いてる。AFM用カンチレバーとクロスキャリブレーションを行うことで、収縮力の定量化を実現した。 筋オルガノイドは、分化成熟段階で収縮動態が変化するため、評価時期の最適化が必須である。筋オルガノイドを培養し自己収縮および電気刺激による応答を観察したところ、分化誘導後2週間から自己収縮が発生していることが確認できた。筋オルガノイドに直接強縮を誘導する電気刺激を与え、その収縮力を経時的に測定したところ、2ー6週間の長期にわたり、平均で100μN以上の収縮力が確認できた(N=8)。経時的な観察により、分化成熟による筋収縮力の変化傾向とそのパターンを取得でき、再現性を確認するとともに、評価時期の最適化に向けた基礎的な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ヒト由来細胞を利用した筋オルガノイドの作製および生体と類似した神経筋接合部を有する神経筋オルガノイドを1チップ上で接合し、ヒト由来神経筋接合組織モデルデバイスを作製すること、さらに筋オルガノイド収縮力評価機構と組み合わせることで、神経・筋疾患に対して“力”を利用した定量的薬効評価技術を実用化することを目的としている。 初年度となる2020年度は主に、神経筋オルガノイドの接合と生化学的評価および神経筋接合部の機能評価機構としての役割を果たす筋オルガノイドの収縮力定量化デバイスの開発に取り組んだ。試作品では、筋オルガノイドの一端をPDMSピラーに取り付け、PDMSピラー先端の移動距離をImage Jを利用して解析し、非侵襲的かつ連続的に定量化する手法を確立した。筋オルガノイドに対して1Hzの周波数で電気刺激を印加すると、PDMSピラー先端部は周期的に変動することが確認できた。PDMSのヤング率と形状、ピラー先端部の移動量から筋オルガノイドの収縮力は概算可能であるが、より正確な定量化を実現するために、ヤング率が既知のガラスニードルとクロスキャリブレーションを実施した。この結果を基に、複数のPDMSピラーから最適な形状(直径と長さ)を決定した。以上の過程を経て、筋オルガノイドの収縮力を簡易的かつ経時的に評価可能なデバイスを完成させている。 神経オルガノイドとの接合、神経筋接合部の作製に関しては次年度となる2021年度以降に実施する予定であるが、その準備として神経軸索を筋オルガノイド付近まで誘引する手法を試作検討中である。神経オルガノイドにはヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y)を想定しているが、SH-SY5Yを分化誘導し作製した神経軸索を非侵襲的に誘引するために、内径が100μm以下のPDMSチューブを簡易的に作製する手法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、主に神経オルガノイドの作製と神経軸索の筋オルガノイドへの誘引手法の確立を通じて、1チップ上での生体と類似した神経筋接合部の実現を目指す。 具体的には、本年度に製造方法を確立したPDMSチューブを利用した神経オルガノイドの培養と神経軸索の誘引を実現するデバイス(神経チャンバ)の開発である。上述の通り、現在はPDMSチューブ内にSH-SY5Y神経軸索を誘引する取り組みを行なっている。誘引手法が確立すれば、SH-SY5Y神経軸索はPDMSチューブに保護されるため、外部の物理的な刺激を受けることなく筋オルガノイドまで誘導することが可能となる。PDMSチューブ内径は十分に小さく、共培養時の液体培地の混合は最小限に抑制できる見込みである。一方で、内径の小ささ故にPDMSチューブ内のコーティング方法も重要な検討要素である。神経チャンバの完成後は、既に開発済みの筋オルガノイドの収縮力評価デバイスと組み合わせマルチプルウェルプレート上で、容易に複数のデバイスが運用できるように最終的な集積化を行う。 また、本年度の成果から筋オルガノイドの成熟パターンには複数の成熟パターンが存在することが判明している。この成熟パターンの違いは、効率的な筋オルガノイド培養方法に直結する。そのため、成熟パターンを制御する要因の究明を合わせて実施したい。 以上の工程を経て、当初の構想通りNeuromuscular junction model-on-a-Chipを開発までを実施する予定である。 Neuromuscular junction model-on-a-Chipの完成後は、薬効評価や各種刺激を与えることでヒト由来神経筋接合組織モデルデバイスとして活用する予定である。本デバイスを活用することで、医薬品だけでなく機能性食品やサプリメントの開発など、効率良くヒトに効果のある製品開発への応用を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの流行により、出席予定であった学会などが中止やオンラインに移行したため、旅費が0となったことが主要因である。次年度となる2021年度は、当初予定の1,0000,000円に次年度使用額の3,765円を加えた1,0003,765円を使用する計画であるが、当初予定の通り細胞培養関連機材の購入や消耗品の購入に充当する。次年度使用額は、消耗品の購入など2021年度の研究において有効に活用する。
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