近年、新薬開発コストの急激な増大が問題となっており、早急な技術革新による新薬開発コストの低減が求められている。有望な薬物分子が細胞に与える変化を迅速かつ正確に評価する技術は、新薬開発プロセスにおいて極めて重要である。これまでは、動物試験が薬物動態を予測する上で重要な役割を果たしており、人体に対する副作用や薬効毒性の評価を担っていた。しかし、動物試験は定量性に劣る面があり、より定量的かつ迅速に薬効評価が行える細胞アッセイツールが求められている。そこで研究代表者は、神経・筋疾患を対象とした創薬過程への細胞アッセイツールとして、本研究の成果を活かした新たな薬効評価技術を確立し、新薬開発コスト削減に貢献することを目的として研究を実施した。 最終年度(2022年度)は、神経―筋接合モデルの実現に向けた神経細胞と筋細胞の共培養手法の開発や筋オルガノイドの収縮力定量評価技術の薬効評価への応用を実施した。 神経細胞と筋細胞の共培養手法では、細胞にヒトiPS細胞由来神経細胞とマウス筋芽細胞株C2C12を選定し、神経―筋接合を目指したデバイスを複数試作した。筋オルガノイドに対して、神経スフィアを誘引するPDMSチップを複数種作製し、筋オルガノイドへの接合を誘起した。しかしながら、本手法による神経―筋接合は弱く時間の経過とともに剥離してしまうことが確認された。そこで、神経細胞シートを作製し筋オルガノイドを被覆することで、神経―筋接合を安定的に維持する手法を研究協力者とともに実施中である。 収縮力定量評価技術の薬効評価への応用では、フラボノイドの一種を培地に混合することで筋オルガノイドの収縮力が有意に向上することを確認した。派生研究からは、低栄養状態や微小重力環境に応答し筋オルガノイドの収縮力が減少することも確認できており、筋疾患の薬効評価モデルとしては実用化の目処が立ったと評価している。
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