本研究は、オーバーハウザー効果MRI(OMRI)を用いて、悪性黒色腫(メラノーマ)の腫瘍中に含まれるメラニンラジカルを非侵襲かつ高解像度で可視化し、メラニンラジカル量から腫瘍深達度の定量的評価を行う手法を新規に構築することを目的とした。 本年度は昨年度に引き続き、ラジカル励起(EPR励起)用共振器の最適化と空洞共振器による高感度化のため、空洞共振器の設計を行った。また、転移性・浸潤性といった特性の異なる細胞株由来のメラノーマについてin vivoでのメラニンラジカル量評価を行い、細胞株の特性によるメラニンラジカル量の変化に関して検証した。 期間全体に得られた成果に関し、マウス後肢の形状・サイズに最適化したサーフェイスコイル共振器により、in vivo計測によるメラニンラジカル量評価及びメラニンラジカル分布の可視化が可能であることを実証した。また、転移性など異なる特性を持つ細胞株由来のメラノーマにおいて、細胞株の特性の違いが腫瘍の成長に伴うメラニンラジカル量の増加率に影響を及ぼす可能性を見出した。また、OMRI装置による生体が生きたまま(in vivo)での計測結果は、X-band EPR(電子常磁性共鳴装置)によるメラノーマ組織を用いたex vivo計測での結果と同様の傾向を示した。このことからOMRI装置によるメラニン量評価の妥当性を実証できた。 本研究で得られた結果は、OMRIによるメラニンラジカル量の定量評価、及びメラニンラジカル分布を可視化することで腫瘍深達度のみならず、細胞の特性が判別できる可能性があることを示すものであった。これは、将来的には、非侵襲で転移性・浸潤性といった悪性度を含めた、悪性黒色腫の早期診断・予後の推定が可能な新たなツールとなり得るという点で、社会的意義があるといえる。
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