遺伝子導入法の開発は遺伝子治療、ワクチン開発などに有用である。DNAプラスミド、mRNA、ウイルスベクターなどの戦略があるが、ウイルスベクターは導入効率および選択的指向性の面で有望である。フラビウイルスは安全性、腫瘍溶解性などの点で優れた増殖型ウイルスベクターとなり得る。しかし、ベクター中の外来遺伝子はRNA組換えにより速やかに排除される。外来遺伝子を安定的に発現するベクターは未だに成功例がない。RNA組換えの機構は不明な点が多いことが、ベクター開発の妨げとなっている。そこで本研究では、RNA変異原を用いた網羅的な変異ウイルス作製により、RNA組換えを防ぎ、外来遺伝子を安定化する変異の同定を試みた。 変異原であるリバビリンの存在下で、レポーター遺伝子を有するフラビウイルスを10回継代した。依然としてレポーター遺伝を保有するウイルス3種類を単離し、全ゲノム解析を行った。単離した3株のうち、共通した変異がRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)活性のあるNS5に導入されていた。これらの変異はRdRPで比較的保存度の低いThumb領域あるいは高度に保存されているMotif A領域に導入されていた。その領域に変異を有するウイルスをリバースジェネティックス法により作製したところ、RNA複製能の低下を確認した。増殖型ウイルスベクターの作製に向けて、外来遺伝子の安定性を検討する必要がある。 また、フラビウイルス弱毒ワクチンの安全性を活かした非増殖型ウイルスベクターへの応用を考え、SARS-CoV-2 Sタンパクを発現するフラビウイルスレプリコンを構築した。構築したレプリコンRNAを培養細胞内に導入したところ、Sタンパクの発現が確認された。このレプリコンをマウスに接種したところ、Sタンパクに対する免疫応答の上昇が確認された。本研究をもとに、増殖型フラビウイルスベクターへの応用を検討している。
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