研究課題/領域番号 |
20K20202
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
巣山 慶太郎 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60707222)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エラスチン様ペプチド / 自己集合能 / 温度応答性 |
研究実績の概要 |
本研究では、天然アミノ酸を原料とすることで生分解性・生体適合性が高く、温度依存的可逆自己集合(コアセルベーション)特性を示すエラスチン由来の合成ペプチド・ELP(Elastin like peptide)を母体として、がん医療、特に、光線力学的療法に適用可能なペプチド性医療材料を開発する。本研究は2年計画であり、初年度にあたる本年度においては、天然エラスチンタンパク質の内部アミノ酸配列を模倣したアミノ酸配列・FPGVG配列を持つペプチドに、光照射によって可逆的にシス・トランス異性化するアゾベンゼン誘導体を導入したアナログの化学合成を行うとともに、そのコアセルベーション能の評価を実施した。光応答性ELPとしては、アゾベンゼン誘導体の2個の芳香環にそれぞれ短鎖(10残基程度)のFPGVG配列ペプチドを付加した直鎖状、あるいはダイマーペプチドに類似したアナログと、環状FPGVGペプチドの繰り返し配列の間にアゾベンゼンを導入した環状アナログの合成を実施した。ペプチド鎖部分を一般的なFmoc固相合成により合成し、アゾベンゼン誘導体の合成ならびにペプチドとアゾベンゼン誘導体の縮合を液相反応で実施することにより、複数種類のELPを得ることに成功した。また、ペプチドの有する官能基の状態により、合成したペプチドの水溶性や凝集特性を制御可能であることを示唆する知見がえられた。これらにより、次年度以降の温度・光応答性評価のためのベースとなるELPのプロトタイプを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の方針は概ね予定通りであり、初年度において目的のペプチドを合成することができた。しかしながら、コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の発出が2度行われたため、当該期間は研究活動が大幅に制限され、当初の計画を上回る成果を得るには至らなかった。また、研究活動の制限に伴い細胞培養実験の環境が一時凍結されたため、復旧作業が必要となり、次年度にも影響が出ることが予想される。 本年度は、温度・光応答性を有するELP アナログのプロトタイプの開発と性状解析を実施した。近年の当研究室での研究成果により、FPGVG配列を有するELPは、通常は温度応答性を示さないほど短鎖であっても、ダイマー化・多量体化および環状化によって温度応答性を示すようになることが明らかとなった。そこで、ダイマーまたは環状ペプチドをベースとする光応答性ELPの開発を実施した。ベンゼン環にカルボキシ基を有するアゾベンゼンに(FPGVG)2ペプチド(10残基)をN末端アミノ基で縮合したダイマータイプのペプチドは、極めて高い疏水性を示し、低温・低濃度での凝集体形成が見込まれたものの、水系で使用する上では改良が必要であることが判明した。これは、水溶性に大きく関与するペプチドN末端がアミドに変換されたことと、アゾベンゼンの芳香環とペプチドの芳香環の相互作用によって強固な凝集体を形成することが原因であると示唆された。そこで、ベンゼン環にアミノ基を有するアゾベンゼンを化学合成し、ペプチドのC末端カルボキシ基で縮合したダイマーペプチドを合成した結果、適度な水溶性を有するELPの合成に成功した。加えて、カルボキシ基とアミノ基を有するアゾベンゼンにペプチドのN末端・C末端を縮合させて環状化したペプチドの合成にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、まずは合成したペプチドの温度応答性・光応答性の解析を行う。アゾベンゼンのシス・トランス異性化の条件検討と、それぞれの異性体における温度応答性の評価を濁度測定により実施し、ペプチドの温度応答性に対する分子構造の影響ならびに光異性化による制御の可能性を検討する。それが完了し次第、当初の予定通りに光励起によりがん細胞のアポトーシスを誘導するテトラフェニル歩ルフィリン錯体をこの光応答性ペプチドに封入した凝集体を形成し、HeLa細胞を用いた光照射・非照射下における細胞傷害活性の有無をMTT試験・LDH放出試験により評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため学会が誌上開催・オンライン開催となったため、旅費として予定していた部分の予算が次年度使用額として生じた。2021年度も引き続き旅費として使用できるかどうかは不透明なため、合成用試薬や精製用装置の交換部品等に充てる予定である。
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