研究課題/領域番号 |
20K20205
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
森下 将輝 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (10811747)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プロバイオティクス / 細胞外小胞 / 糖代謝 / がん免疫療法 |
研究実績の概要 |
有用微生物であるプロバイオティクスが分泌する細胞外小胞を利用した新たな疾患治療法の開発が期待されている。その実現には細胞外小胞高機能化を図る必要があるものの、従来の方法では機能改変後に細胞外小胞の生理活性が損なわれる懸念があった。本研究ではプロバイオティクス由来細胞外小胞の活性保持と機能付与を両立できる技術を開発し、難治性がんに対するがん免疫療法の構築を目指す。 当該年度は、昨年度の報告で課題として取り上げた細胞外小胞へのアジド基導入効率の向上に取り組むとともに、細胞外小胞の生理活性評価を行った。まず細胞外小胞へのアジド基導入に関しては、ビフィズス菌の濁度の最適化を行った。アジド糖添加時のビフィズス菌の増殖度合いを厳密に制御することで、細胞外小胞へのアジド基導入効率がわずかに向上した。しかし、細胞外小胞上のアジド基を介してがん抗原や免疫細胞指向性を付与し、これを利用して抗腫瘍免疫を誘導するためには依然として導入効率が不十分であると思われる。この点については、使用したアジド糖(アジドグルコサミン)以外で、菌体への代謝標識を介した細胞外小胞への機能搭載が期待できる別の候補試薬も併せて検討する予定である。また、本研究では細胞外小胞の活性保持と機能付与の両立を目的としていることから、機能付与後の細胞外小胞の免疫活性化能も評価した。すなわち、アジド基搭載後の細胞外小胞を免疫細胞であるマクロファージ細胞(RAW264.7)へ添加した後、免疫活性化の指標である炎症性サイトカインの産生量を測定した。細胞外小胞へのアジド基搭載の有無にかかわらず同程度にサイトカイン産生が見られたため、本手法を適用することでプロバイオティクス由来細胞外小胞の重要な特性(免疫細胞活性化)を保持しつつ機能付与が出来ることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではビフィズス菌由来細胞外小胞の活性保持と機能付与を両立し、難治性がんに対するがん免疫療法を構築することを目的としている。このうち、活性(免疫細胞の活性化)については、代謝標識を利用した細胞外小胞への機能付与後も保持されることを、免疫細胞を用いた実験から確認できた。一方、抗腫瘍免疫の誘導に向けては細胞外小胞にがん抗原および抗原提示細胞指向性を十分量付与する必要があるため、機能搭載の効率については上述の通り更なる向上が求められる。本年度はアジド―アルキン反応によるビフィズス菌由来細胞外小胞への機能付与を達成し、さらにこの細胞外小胞の生理活性評価を行う予定であった。このうち機能付与についての研究は設定した目標が一部達成できなかったため、当初の計画よりもやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、機能性細胞外小胞を利用して強力な抗腫瘍免疫活性を獲得することを目的に、代謝標識が可能な他の試薬も併せて検討する。一連の条件検討により最も高効率にアジド基が導入されたビフィズス菌由来細胞外小胞を回収した後、がん抗原および抗原提示細胞指向性を付与する。またウェスタンブロッティング法で目的分子の付与の確認も行う。次いで、機能性細胞外小胞をマウスに投与後、抗原提示細胞と細胞外小胞との局在を観察するとともに、がん細胞特異的な細胞傷害性 T 細胞の誘導能を評価する。さらに、モデル動物を使用した細胞外小胞の抗腫瘍免疫活性も評価する。以上の検討により、プロバイオティクス由来細胞外小胞の活性保持と機能付与を同時に満たす画期的な技術を開発し、これを利用した新たながん免疫療法の実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、当該年度はアジド―アルキン反応によるビフィズス菌由来細胞外小胞への機能付与を達成し、さらにこの細胞外小胞の生理活性評価を行う予定であった。この計画に対し、機能付与後の細胞外小胞の免疫活性化能は予定通り遂行できた。しかし、細胞外小胞上のアジド基量が不十分であったため、がん抗原や抗原提示細胞指向性の付与には至らなかった。すなわち両分子およびそれを検出するための実験(ウェスタンブロッティング)に必要な関連試薬を購入しなかったため、当該助成金が発生した次第である。よって次年度は代謝標識効率の向上と、その後の細胞外小胞の抗腫瘍免疫活性評価を重点的に行うために当初よりも多くの物品費を支出する計画であることから、関連経費の執行に際しては当該助成金を充当する予定である。
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