研究実績の概要 |
動脈硬化症による狭窄血管に対する治療として、バルーン血管形成術が普及している。血管を拡張し保持するためには、バルーン拡張による血管中膜の繊維破断を伴う塑性変形が必要である。不十分な拡張では血管壁の弾性力による再狭窄が生じ、過拡張では創傷治癒反応による再狭窄が生じる可能性がある。現在、バルーン拡張の程度に関する指標が存在せず、不十分或いは過度な拡張による術後再狭窄が課題である。そこで再狭窄抑制のために、バルーン拡張中の繊維破断をモニタリングすることを目指した。 これまでの治療でパラメーターとされてきたバルーン印加圧と実際の血管拡張中の変形を明らかにし、拡張に伴う後方散乱光強度経時計測、バルーン表面での拡張術中の血管インピーダンス経時計測、拡張術中の血管中膜外側での音波経時計測を行った。ブタ健常頸動脈を用いバルーン印加圧を8 atmで60 s加圧したとき、インピーダンスは拡張によりが平均9.7%増加した。これは血管の厚みが薄くなったことおよび繊維破断が生じたことによると考える。バルーンと血管壁の界面圧、血管内壁圧力の測定を行った。拡張中に血管壁塑性変形により生じる機械信号を、ピエゾフィルムおよび音響センサーを用いて計測した。適切な塑性変形条件検討では、摘出血管に対して不十分な拡張および十分な拡張を模擬するために、直径4, 6 mmの2種類のバルーンを用いた。バルーン拡張40 sの間に、十分な拡張の条件では繊維破断によると思われる音波波形変化が平均3回現れた。現在臨床においてバルーン拡張術は最大60 s程度で行われているが、拡張開始後30 s程度までに繊維破断に伴う塑性変形が生じていると考える。拡張術中に音波を経時計測することで、繊維破断状況をモニタすることができる可能性が示唆された。
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