金属メッキ糸の織布を利用した次世代型2次元個人線量計の開発

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K20246
• 研究機関: 福島県立医科大学
• 研究代表者: 大葉 隆 福島県立医科大学, 保健科学部, 講師 (00814055)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: X線検出器 / 2次元個人線量計 / 金属メッキ糸 / 織布 / 放射線

研究実績の概要

本研究の目的は金属メッキ糸の織布を利用した世代型の2次元個人線量計の臨床応用に向けた基礎的な開発を目指すことである。これは、織布である性質上フレキシブルであり、肌着のように軽量で、かつ、安価であり、個人外部被ばく線量の等方性被ばくの問題を解決するための理想的な2次元検出器となりえる可能性がある。
2021年度は、X線検出器として使用している金属織布に関する性能評価を下記のように3パターン実施した。①金属織布の生地の種類、②金属糸の撚り本数、③金属を織布へペーストした場合検出能力。これらの実験は医療用のX線発生装置を用いて、1回の曝射が1 mGy前後で、X線管と織布の距離が70 cmにて、曝射時間が50 msecとなるような条件で実施した。①については、一般的に市場で使用されている5パターンについて、X線検出能力を比較したところ、金属織布の密度の違いによって、X線検出能力が変化した。②について、①からきつく編む場合、細い金属糸の撚（よ）り本数（1本の糸を複数本の細い糸で撚る）について、金属糸を1本、2本、3本と撚り本数を変化させて、X線検出能力を比較したところ、その出力に変化なかった。③について、金属を織布へ10μm程度の厚さで直接織布へペーストした場合に、金属の厚さを0μm、10μm、30μm、60μm X線検出能力が変化するか検討した。その結果、金属の厚さに従って、X線検出能力は上昇していった。
全体として、①②から金属糸をきつく編み込み、細い金属糸の撚り本数を変化させたとしても、③のようにペーストとして、金属を面として、隙間なく布へペーストしたほうが、X線検出能力が高くなることが分かった。しかし、金属を直接織布へペーストした場合、布の重量が増加していくため、金属を直接織布へペーストした布を着衣として想定した場合、着衣としての重量を考慮することが今後の課題となった。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2021年度は、金属織布の素材や特性を決定するのに、多くの時間を要してしまった。金属織布は研究途上であり、未知の特性を多く備えているにもかかわらず、それ自体の研究開発は積極的に実施されていないのが実情である。そのため、本研究でも、市場の金属織布の種類だけでなく、金属の織布上の密度（金属糸の撚り方や金属ペーストの検討）などを実施して、企業とのサンプル作成に時間を要していた。本研究と共同研究している企業の担当者とWEB上にて綿密に本研究で使用するサンプル作成の打ち合わせを実施して、サンプルの提供を受けていた。X線検出能力が金属織布の性状と深くかかわっていることが本研究で明らかになってきたことから、2021年度は時間をかけて、本研究を進めてきた。そのため、予定より、進捗状況がやや遅れてしまった。

今後の研究の推進方策

現在の研究の最大の関心点は、X線検出器としての金属織布からの電気信号をX線郷土に合わせて変化させることにある。そのためには、従来の一般的な電気信号の検出装置では自不十分であり、電子回路の条件を変更する必要がある。電子回路の条件変更はPC上の条件設定による理論シミュレーションだけでなく、実際に組み立てを変更して、理論通り作動するかを確認する作業も含まれる。この作業には膨大な時間を要し、3年目の研究計画として、重要な部分となる。そのためには、電子回路に詳しい専門家へ相談して研究を進める。
また上記に合わせて、線量計特有の依存性の検討による金属織布におけるエネルギー依存性と方向依存性も検討する必要がある。エネルギー依存性とは、放射線の種類がX線だけでなくガンマ線もあり、広い範囲でエネルギーの特性を知ることである。方向依存性は360度方向のコリメートされた照射野からの反応である。これらの検討は、金属織布のX線検出性能評価を実施したうえで、ある程度の金属織布の傾向をとらえてうえで、次のステップへ移行したいと考える。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由は新型コロナウイルスの感染状況により予定していた研究打ち合わせがWEB開催となり、旅費を支出するに至らなかったためである。2022年度は、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き次第、次年度使用額を研究打ち合わせのための旅費として支出する予定である。