本研究の目的は、金属糸織布や金属塗布織布を活用して、次世代型の2次元個人線量計の臨床応用に向けた基礎的な開発である。これは、織布である性質上フレキシブルであり、洗濯が可能である特性を最大限生かしながら、個人の被ばく管理における新たな可能性に挑むことであった。現在の個人線量計は、特定箇所に装着するため、入射方向の情報は得られない。放射線の入射方向情報は、正確な個人の外部被ばく線量を算出する上で重要となる。そのため、本研究の成果は、外部からの等方性被ばくにおける問題を解決するために理想的な2次元検出器となりえる可能性がある。 3年間の研究を通して、X線検出能力を判断するため、金属糸織布や金属塗布織布について、様々なパターンを検討した。その結果、金属糸織布の場合、X線検出能力は編み方や糸への金属量に関わらず、その能力の向上があまり見込めないことが分かった。一方で、金属塗布織布の場合、X線検出能力はペーストする金属の厚みによって、向上することが分かった。しかし、ペーストする金属量が多くなるほど、金属塗布織布の重量が増すため、金属塗布織布は、X線検出に関する用途が限られる可能性が示唆された。また、このような織布をX線検出器として活用した場合、一定の出力電圧が得られることが分かっている。これは、電磁誘導の一種であると考えられた。しかし、この出力電圧は、曝射したX線の出力と比例する情報として検出することが難しく、この部分に関して今後の課題として残った。 最後に、本研究の副産物として、金属糸織布や金属塗布織布はX線遮蔽能力を示す可能性があった。特に、金属塗布織布はペーストする金属の厚みが増すほど、X線遮蔽能力を示したため、今後はX線遮蔽を可能とするフレキシブルな素材としても効果を発揮する可能性を示唆した。
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