本研究は読字障害の技術支援を動機として計画し、読字機器の使用による読字能力の変化を眼球運動の観点から評価する方法を検討した。 先天性および脳卒中などによる後天性の読み書き障害は日常生活に深刻な影響をもたらす。脳卒中の視点から読み書き障害に焦点を当てると、失語症においては音声言語による意思疎通の改善が優先され、文字言語の障害への評価や訓練の機会は相対的に少ない現状にある。しかし、若年の脳卒中患者では就学、就労、社会的手続きのために読字能力を要する場面が多く、読字障害への評価と介入は音声言語と同等の重要性をもつ。 読字障害への介入は機能訓練にとどまらず、近年の支援技術の進歩によって視覚障害者用の携帯可能で読み上げ機能を持つ読字機器による代償手段の利用が期待される。しかし、機器の使用が機器を使用しない状態での読字能力に与える影響は不明なままとなっている。読字障害の評価は評価用紙を利用した比較的時間を要する課題が主流で、繰り返しの測定を前提とすると被験者の負担が大きい。本研究では読字能力を眼球運動の側面から簡便に評価することを目的として、アイトラッカーを用いた短時間での評価方法を検討した。 最終年度も失語症患者での読字時の眼球運動を評価した。単語および文章を黙読および音読する際の眼球運動を計測し、停留数、停留時間、最適停留位置を主な評価項目とした。これらのうち停留数が比較的用いやすかった。提示した内容では文字数の違いから単語より文章で停留数が多く、黙読より音読で停留数が増加した。対象者数が少ないために一般的な傾向を見出すことは難しいが、個々の症例では文章での停留数を比較することで読字機能の変化をとらえやすい可能性が示された。
|