目的:人間の複雑な運動は,筋力だけでなく,脳・脊髄と末梢神経の密な神経接続によって実現されている.近年,運動意図に応じた感覚刺激を人工的に生じさせることにより,ヘブ則にもとづいて中枢神経系を含めた神経回路網の強化を目指す手法が提案され,運動リハビリテーションへの応用が期待されている.ここで,運動意図と感覚刺激が一致したことの評価指標として,運動主体感と呼ばれる自らが運動を引き起こしたと感じられる感覚の強さを利用できる可能性がある.本研究では,高齢者の健康寿命の延伸に貢献する舌の運動リハビリテーションを対象とし,運動主体感の向上を実現するシステムを構築することを目指した. 計画:これまで,口腔内に設置した電極から舌の運動状態を推定する技術を利用し,舌の動作方向に応じてディスプレイ上のカーソルが移動するシステムを制作していた.しかしこのシステムには後述する2つの問題があり,十分に使用者の運動意図と視覚フィードバックを一致させることができなかった.本研究では,1.システム同定の手法を利用した舌の運動能力の推定,2.FRITによるアシストシステム設計と運動意図に応じたフィードバックの実現を目指した. 成果:1.システム同定の手法を利用した舌の運動能力の推定については,舌に対して一定の力を与え続けることができる舌圧子タイプの装置を製作し,健常人による実験から舌の運動特性を計測した.この時製作した装置についても,運動トレーニングのための装置として利用可能である(機械学会論文誌に掲載). 2.FRITによるアシストシステム設計と運動意図に応じたフィードバックの実現については,複数の地点で計測した発揮筋力などから個人の運動能力に応じたアシストシステムを構築する手法を提案し,シミュレーション(電気学会電子・情報・システム部門 技術委員会奨励賞)と実験により確認した(電気学会論文誌Cに掲載).
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