本研究では、手足の残存能力がそれぞれある程度存在する患者を対象とし、片麻痺患者が杖歩行訓練を行うための歩行器の開発を継続して実施した。その中で、転倒を予測することで、症状がより重症で残存能力が低い患者でも使用できるように、身体の各部の加速度から、0.5歩行周期先の移動速度を予測できるようにした。また、麻痺などの障害には個人差が大きい部分があり、それに伴って装具を使用するなど、計測装置を付けられない部位が存在する。これに対して、特定の部位の加速度センサを使用できない状態でも移動速度の予測が高精度になるように、センサの欠損を補うセンサ配置の検討を行うことができた。 また、腱への振動刺激を与えることによって生まれる運動錯覚を用い、歩行運動への介入が可能であることを明らかにできた。この研究の中で、動作時の運動錯覚を引き起こす刺激の周波数が、静止時の運動錯覚を引き起こす刺激の周波数よりも高いことが明らかになった。これは、運動時は静止時に比べて腱にかかる張力が高くなっていることが関係しているものと考えられる。 これらと並行して、歩行中の靴の中に生じる圧力や剪断力の計測を可能とする、新たなセンサを開発した。特に最終年度は、布に編み込める0.5㎜径のワイヤ型センサを用いており、振動と圧力、振動と剪断力の関係を周波数解析したものを機械学習にかけ、推定モデルを構築した。この成果により、今後は医療・福祉用の靴に限らず、競技用の靴の動的フィッティング等も可能になり、エネルギー効率の良い靴の開発にも使用できるほか、靴だけに限らず、衣服に縫い込むことで床ずれ防止等にも応用が可能である。
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