研究課題/領域番号 |
17H06180
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真鍋 祐子 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00302258)
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研究分担者 |
金子 毅 聖学院大学, 政治経済学部, 准教授 (30383417)
李 美淑 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (40767711)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 富山妙子 / 越境 / トランスナショナル連帯 / フェミニズム / 炭坑 / ポストコロニアリズム |
研究実績の概要 |
本研究は、①富山妙子氏から寄贈された資料のDB化、②「越境する画家」の側面に焦点をあて、知識・移動・相互行為の3つの局面から画家とその作品世界がどのように構築されたかを明らかにする、③「越境する作品世界」の側面に焦点をあて、メディア化された富山作品がさまざまなルートで越境された結果、世界の歴史的動態に対しどのようなインパクトをもたらしたかを明らかにする、という3つの目標からなる。 ①については、資料の整理をほぼ終えた。そこから体系化されたDBを構築するためには、多様な学問的体系をもつユーザーがアクセスするのにどのようなキーワード設定が有効か、という視点から、富山氏の語りを再読する作業を行なった。著作の他、面談調査で得た口述テキストのデータ化を完了した。 ②については、韓国、日本、ドイツでの調査を行った。韓国では「海の記憶」制作にあたって協働した関係者への面談を行った。また「はじけ!鳳仙花」制作の舞台となった九州の炭坑と、ドイツへ派遣された炭坑労働者たちの足跡を辿る現地調査を実施するかたわら、ルール大学社会運動研究所との今後の研究協力関係を確認した。 ③については、以下の2点があげられる。ⅰ)アメリカ、メキシコで調査を行い、70年代に富山作品を翻訳、上映した関係者に面談して当時の情報ネットワークに関する証言を得た。これらは予備調査としての意味もあり、今後のさらなる協力を依頼して快諾された。ⅱ)80年代初めに欧米圏で初めて富山妙子の展覧展を実現し、フェミニズムを軸に在独の韓国人と日本人を結びつける役割をはたしたルール大学名誉教授Ilse LENZ氏を招聘して国際シンポジウム「越境する画家、越境する作品世界―トランスナショナル連帯における富山妙子の画業について」(3月19日、東京大学)を開催し、70年代末からのアジアの女性運動への参与経験も含め、証言を交えての講演会を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①当初は最終年度に予定していたルール大学名誉教授Ilse LENZ氏を招聘したシンポジウム開催及びインタビューが、「ベルリン女の会」の仲介により初年度内に実施された。早々にLENZ氏との協力関係が築かれたことで、今後ドイツでの研究の円滑化が見込まれる。また同会の紹介でチュービンゲン大学の歴史学教授You Jae LEE氏との知遇を得、今後「超国家的民主化運動」という視点から共同研究を行う中で富山妙子への関心を共有することとなった。 ②予備的調査の位置づけで行ったメキシコ調査が当初の想定を超える成果をあげた。70年代末のメキシコ・シティで金芝河をモチーフとした「縛られた手の祈り」スライド上映会に関わった人たちに面談を重ね、ブラジル人亡命者フランシスコ・ジュリアン、ラテンアメリカ諸国からの亡命者のサロンとなった「クエルナバカの文化センター」、その創設者であるイヴァン・イリイチ、イリイチが理論的リーダーであった解放の神学等、いくつかの重要な糸口が得られた。また「縛られた手の祈り」のスペイン語翻訳に関係した韓国政治学者Alfredo ROMERO氏と面談を行い、60年代における氏の韓国留学経験、ラテンアメリカにおける舞踊家・崔承喜の研究という視点から、韓国とラテンアメリカ、植民地主義とアートの関係について重要な示唆を受け、今後の協力関係を確認した。 ③科研採択決定直後に、大韓民国歴史博物館で"Truth:Promise for Peace"と題した企画展への出品が決まり、2名の研究協力者が運営に加わった。だが作品解説や展示方法をめぐり、富山の「越境する作品世界」が内包する「意味」が主催者との間で齟齬を生じる局面に向き合うことになった。だが、これは逆になぜそうした齟齬が生じるのかという新たな視点から富山作品の越境性を再考する機会として、次年度からの研究計画に投げ返されることになった。
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今後の研究の推進方策 |
①富山妙子氏から寄贈された資料のDB化について。富山氏の著作と口述データからキーワードを抽出し、体系化することで、受贈資料を整理し直すことを、今年度の目標とする。 ②「越境する画家」の側面に焦点をあて、知識・移動・相互行為の3局面から画家とその作品世界の構築過程を明らかにする作業について。3月19日に開催したシンポジウムには70年代以来、富山と協働した高橋悠治氏、花崎皋平氏等の関係者が複数参加した。今年度はこの方たちを中心とした聞き取り調査を実施する。「海の記憶」制作に影響を与えた韓国の関係者はいずれも高齢のため面談ができなかったので、その対応策として、80年代にその周辺で若手として働いていた研究者たちにインタビューを行う予定である。また九州とドイツでの炭鉱労働者の調査は引き続き行う。 ③「越境する作品世界」の側面に焦点をあて、メディア化された富山作品がさまざまなルートで越境された結果、世界の歴史的動態に対しどのようなインパクトをもたらしたかを明らかにする作業について。富山作品の波及効果について韓国、タイ、フィリピンでの調査を行う。またメキシコでの予備調査を踏まえて、引き続き関係者への聞き取りを行いながら、日本人炭坑労働者の移民先であり、フランシスコ・ジュリアンの出身国であるブラジルにても調査を実施する。 ④「越境する作品世界」が内包する「意味」と受け手との間に生ずる齟齬について、大韓民国歴史博物館での事例をもとに検証を行う。この問題は3月19日のシンポジウムで李美淑が提起した富山作品の多言語化にも関係している。そこから、アートが内包する「意味」が共有され、世界に対して働きかけるには、言語・観念の壁を超えていかなる体系化が可能であるかという問題を、新たな課題として設定する。総括的実践として、富山妙子氏が切望する韓国での展覧会、及びシンポジウムの科研期間内での開催実現を目指す。
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備考 |
Rebecca Jennison,"'The Military Comfort Women’and Art in Japan:Remembrance and Reconciliation in Tomiyama Taeko’s Art”,Truth: Promise for Peace, National Women’s History Hall, Seoul,2017(展覧会図録・所収論文)
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