研究課題/領域番号 |
17H06180
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真鍋 祐子 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00302258)
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研究分担者 |
金子 毅 聖学院大学, 政治経済学部, 准教授 (30383417)
李 美淑 立教大学, グローバル・リベラルアーツ・プログラム運営センター, 助教 (40767711)
藤岡 洋 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (80723014)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | トランスナショナル公共圏 / コンタクト・ゾーン / 境界的空間 / ポストコロニアリズム / ジェンダー / シュルレアリスム / 炭鉱 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究実績として、以下の3点から整理して述べる。 まずトランスナショナル公共圏の観点から、韓国、タイ、フィリピン、メキシコに富山妙子の作品世界の足跡を追い、それが民主化運動にはたした役割について検証を行った。また70年代のメキシコで富山作品のスペイン語訳を通して韓国民主化運動にコミットした朝鮮研究者Alfredo Romero教授を招聘し、国際学術セミナーを開催した。加えてトランスナショナル公共圏に現出するコンタクト・ゾーンと境界的空間におけるアーティストたちの相互作用についても考究がなされた。これらの成果は国際学会で発表されると同時に、その試みを「東アジアのポストコロニアルとアート」と題したワークショップ企画を通して可視化させることに成功した。 次に富山妙子の作品世界に対し、女性の身体表象に注目して、ポストコロニアル状況をジェンダーの観点から読み解く検証を行った。具体的には「満州」体験から韓国と出会うこととなった富山の軌跡に焦点をあてる、富山作品にみられるシュルレアリスムの手法から三次元的な歴史の奥行を読み取る、といった方法がとられた。これらの成果はどちらも韓国で開催された海外学者招請フォーラム、および国際シンポジウムで発表された。 さらに「炭鉱」に焦点をあて、50~60年代に富山が九州で見聞した炭鉱夫の行方を検証すべくドイツ・ルール地方で調査を実施した。同時に80年代以降、富山が韓国民主化運動を画題とする自身の作品を介して結びついた在独韓国人女性への面談調査も行った。富山が何を描き何を捨象したか、またドイツという境界的空間の中で富山の作品に込められたいかなる「意味」がそこに共有されたかを考察し、研究成果報告書にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究を進めながら、富山妙子の生活史と画業が20世紀以降の世界史とどのように相互作用してきたかという問題意識は、富山資料のデータベース化や研究成果としての著書・論文とは別途、展覧会を通してより効果的に表象できるのではないかという議論を進めてきた。その際、展覧会には既出の作品展示だけでなく、現役で創作を続ける画家の「今」を可視化しうるコンセプトが不可欠という点も確認していた。 2018年度は、研究分担者、研究協力者が各自のテーマで研究を進める一方、2017年度末のIlse Lenzルール大学名誉教授に続き、Alfredo Romeroメキシコ国立自治大学教授を招聘して国際学術セミナーを開催し、トランスナショナル公共圏における各人の立場から富山妙子に関する貴重な証言を得た。一方、2013年7月に富山妙子にインタビューした未公開の映像資料をもつ記録映像作家・岡村淳監督より協力を得ることになり、各作品の創作にまつわる証言や、新たな作品を生み出そうとする老画家の「今」の姿を収めた、複数の短編映像の制作に取り掛かっている。よって、これまで構築してきた独自の作品世界を今後の時代批評へといかに架橋していくかについて、富山自身の語りを聞き取るという研究計画が想定外の方法で迅速に進行することとなった。 以上の流れを踏まえて、本研究では2020年度に韓国で展覧会を開催することを目標にすえた。展覧会は延世大学博物館百周年記念館を会場とすることが内定しており、2018年度内に延世大側との複数回の打ち合わせと、キュレーターと富山妙子との面談その他の手続きを終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に本研究の集大成として、富山資料のデータベース化、各自の研究成果としての著書・論文・学会発表等のほか、韓国での展覧会でこれらが最大限に可視化されることをめざしたい。展覧会は作品展示だけではなく、会場となる複合施設を活用して、学術シンポジウムはもとより、富山が協業者たちと制作したスライドや映画の上映会、長年富山と協働してきた音楽家・高橋悠治氏の演奏会等、富山妙子の作品世界を多元的に表象できる内容とする。 2017~18年度の招聘講演や面談の対象が主に海外で富山作品に触れ、韓国民主化のために連帯した人々だったのに対し、今年度は富山と協業してスライドや映画を制作したり、海外に富山作品を広く紹介したりした日本国内の文化人や知識人を招聘して、講演会を開催し、証言を記録することに力点をおく。高橋悠治(音楽家)、花崎皋平(哲学者)、萩原弘子(美術史研究者)、太田昌国(評論家)、藤井貞和(詩人)などが対象となる。
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