研究課題/領域番号 |
17H06190
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡邊 直樹 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 准教授 (20378954)
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研究分担者 |
後藤 励 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 准教授 (10411836)
小川 一仁 関西大学, 社会学部, 教授 (50405487)
熊野 太郎 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (00700494)
栗野 盛光 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (90732313)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2023-03-31
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キーワード | 二部マッチング / 医師初期臨床研修 / ゲーム理論 / 定量的評価 / 被験者実験 |
研究実績の概要 |
本研究では、これまで、医師へのアンケート調査、実験室実験によるマッチングアルゴリズムの性能評価、新たに指摘された問題への理論的対応の検討を行ってきた。2019年度の研究実績は次のとおりである。マッチング理論班では、医師初期臨床研修マッチングでも使われているDAメカニズムにおいて、耐戦略性を満たしつつ研修医の厚生を上げる選好ドメインの範囲を特徴付けし(栗野)、病院側が研修医に順位づけをする際、複雑な構造(代替性や無差別)を持っていたとしても安定性を保持するマッチングが存在すること、および、その導出方法を発見した(熊野)。実証分析班では、保健・医療専門職の労働市場において、初期研修義務化以降の医師の労働市場の変化に関する分析を行い、定量的な分析結果を書籍の形で刊行した(後藤)。実験室実験班では、ChenとKestenによるマッチング実験の結果は被験者を彼らの認知能力によって区別しない状況において得られることを発見した(小川、渡邊)。さらに、先見的安定性の概念を抽象ゲームにおいて拡張し、マッチング理論への適用可能な形に整備した(渡邊)。これらの研究成果の多くは評価の定まった査読付き国際専門誌から刊行されたが、今後の投稿を予定しているものもある。また、和文論文、教科書や訳書の刊行、研究集会を通じて、研究成果の紹介を行ってきた。論文にはまだまとめられていないが、次年度以降の課題である計算機実験を実施するためのソフトウェアの開発も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はこれまでのところ順調に進展している。理論、実証、実験の全ての面で研究成果を挙げており、それぞれ、評価の定まった査読付き国際専門誌から刊行されたが、今後の投稿を予定しているものもある。また、和文論文、教科書や訳書の刊行、研究集会を通じて、研究成果の紹介を行ってきた。 実験室実験ではトップジャーナルから刊行された最新の実験結果を再検討しており、検証実証研究では初期臨床研修制度導入後の医師の労働市場の変化を明確にしている。理論面でも新たな進展が見られ、特に2010年の制度改革に対してマッチング理論研究者から指摘された問題を分析するための概念の拡張が行われた。今後の進展次第では、当初の計画以上の研究成果を期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の最重要課題は2010年の地域枠導入後における医師初期臨床研修マッチング再検討である。地域枠は2004年の制度開始より指摘されてきた医師の偏在を解消することを目的として導入されたが、マッチング理論研究者からは地域枠の設定は医師の研修先病院へのマッチングに安定性を保証することができない場合があることが指摘されていた。 マッチング理論で用いられる安定性概念は非常に強いものであり、それを保証できるメカニズムが存在するからこそ欧米や日本でマッチング制度が導入されたのだが、それによって医師の偏在が顕在化し、少子高齢化を背景とする日本の財政や社会保証制度の維持に適した医療の供給体制や医療教育の構想が求められてもいる。そこで、従来の安定性概念ほど強くはないが、ある程度の安定性を保証できるかどうかは現在のマッチング制度が医師の公平な割当を実現できているかを判定するために必要な研究である。 一方、本研究におけるこれまでの実験結果を受けて、理論が想定する行動をとらないマッチング参加者がいる場合でも割当の頑健性をある程度保証しうるアルゴリズムを模索することも重要な研究課題である。これまでの理論研究では、理想的な行動またはそれに近い行動をマッチング参加者がとる場合のみを考察してきた。100名の医師をいくつかの研修先病院に割り当てる場合でも、膨大な数の行動の組み合わせがあり、理論研究が上述のアプローチをとることは理に適ってはいる。これに対して、計算機の発達により、数百万通りの行動の組み合わせを検討することも可能になっていることは事実でもある。そこで、実験において観察された被験者の行動を取り出し、計算機実験によって、それらと理論上もっともらしい行動をどのように組み合わせたときに、現在のアルゴリズムではどのような問題が生じるかを明確にする。
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