研究課題/領域番号 |
20K20284
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小川 卓克 東北大学, 理学研究科, 教授 (20224107)
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研究分担者 |
岩渕 司 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40634697)
丸田 薫 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (50260451)
服部 裕司 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (70261469)
石毛 和弘 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (90272020)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 圧縮性粘性流体 / 端点最大正則性 / 適切性 / 非適切性 / 臨界空間 / 熱方程式の初期値境界値問題 / 藤田-加藤の原理 / Stokes問題 |
研究実績の概要 |
研究代表者の小川は清水扇丈氏(京大人環)と共同で, 非圧縮性Navier-Stokes方程式の時間局所, 時間大域適切性が得られるスケール臨界空間に関連して, Stokes方程式の最大正則性を空間有界平均振動(BMO)のクラスで確立した. 有界平均振動のクラスは回帰的ではなく, 従って最大正則性の一般論が成立する, 無条件マルチンゲール差性が破綻する空間であり, 拡張された時空Chemin-Lerner型空間を用いて確立した. 分担者の岩渕 司氏と共同で, 等温条件の元で, 圧縮性Navier-Stokes方程式の初期値問題をスケール臨界空間で考え, その空間方向にもっとも正則性の緩い限界指数である p=2n の場合に, 初期値問題は非適切となり, 初期時刻の近傍でいくらでも大きななめらかな解が構成され端点空間での適切性が破綻することを証明した. さらに太陽フレアーなどで発生するプラズマの再結合効果を現す, Hall効果を考慮した, 圧縮性Navier-Stokes方程式と磁気粘性方程式の連立系を空間遠方で磁場が零にならない設定の元で, 臨界空間における時間大域適切性と時間に対する減衰(定常密度・磁場への安定性) を 川島秀一氏, 中里亮介氏(いずれも早稲田大理工)と証明した. 故黒木場正城氏と確立した走化性粘菌の動的モデルであるKeller-Segel系の初期値問題の緩和時間無限大極限で, 移流拡散方程式を導出する特異極限問題を, 勝呂剛志氏(京大数理研)が証明した総質量が発散する一様局所Lebesgue空間あるいはその拡張である, 一様局所Morrey空間において同様の特異極限を証明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
燃焼の動的構造を探る上で欠かせない圧縮性粘性流体の方程式に対する臨界空間の適切性, 非適切性については順調な成果を得ている. 圧縮性粘性流体のスケール臨界適切性については空間3次元以上で限界の指数が非適切となることを示すことができたほか, 空間2次元の理想気体の場合には想定される函数空間よりも狭い設定でも初期値連続依存性が破綻する. これら臨界空間における適切性の研究は, 強い衝撃波に準ずる爆発燃焼における臨界性の寄与を探る上で最も重要な判定基軸と考えられる. 他方緩やかな燃焼を司る, 液体の燃焼においては, 非圧縮性粘性流体の表面運動を含めた系を支配する非圧縮性Navier-Stokes方程式の, やはりスケール臨界理論における動的挙動が重要な役割を果たすものと考えられるため, まずは線型化問題である, Stokes 方程式の最大正則性理論を臨界空間で研究している. 特に流体の界面運動に関わる挙動を時間大域的に制御するためには, 内部の粘性流体方程式とともに, 境界面での動的挙動に対応する成分の研究が不可避であるが, 時間大域的挙動を制御する上で重要となる, 時間指数端点最大正則性を一般の変数係数放物型問題の初期値境界値問題の場合に確立した (JEE 2022年掲載済み). またプラズマや太陽コロナなどに関連するHall効果付きの圧縮性粘性流体の研究は, 空間遠方に磁場が存在するより複雑なケースにおいて, 問題の適切性を議論することが可能となった. 今後これらの解の挙動を研究する上で重要な土台となるものと期待される.
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今後の研究の推進方策 |
燃焼を司る動的モデルである, 圧縮性粘性流体のモデルに対する界面近傍での挙動に関わるダイナミクスを, 実解析の技法で研究する. とりわけ線型化問題の動的挙動と時間零近傍での挙動を支配する時間方向ヘの可積分性について研究する. すでに線型熱方程式の非斉次ノイマン境界条件における挙動の解析が終わっていることから, 初期界面の挙動がどの程度の正則性で流体の安定な挙動が得られるか, それに従い燃焼の安定性が従うのかを理論的・数値解析的に研究する. 特にこれまで海外の研究者らとの直接交流が妨げられてきたが, コロナウイル感染症の大幅な収斂を見越して, 今年度には若手協力者らの海外派遣と, 海外有力研究者らの国内招へいを通じてコロナウイルス感染拡大期間中に不通となった情報収集と相互交流による, 新展開を誘起する. そのための国際研究集会2件と, 若手の海外派遣3名を次年度の前半に企画している. 燃焼を司る動的支配方程式である圧縮性Navier-Stokes方程式の適切性と非適切性に対して, 燃焼の非常に単純なモデル方程式である非線形熱方程式のスケール臨界空間における正値解の非適切性の結果が反映しており, 燃焼モデルと圧縮性粘性流体の相互作用が生じる場合に, 共有される数学的枠組みが設定しやすくなる. 今後はこのような共通の構造の解明を進めるとともに, 境界がある場合に対して同様な問題に対して研究を進める. また燃焼の局所的な挙動に関連して解の集中現象が挙げられる. 燃焼の過程において, 特異的な燃焼と考えられる異常発火は燃焼過程の動的挙動を支配する偏微分方程式の解が, 集中する現象として捉えられる. 関連する問題(移流拡散モデル)における解の集中現象について研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症拡大により, 国際共同研究・国際研究集会等の開催など国際関連事業が困難となった. これら国際集会は令和5年度の10月期, 11月期に重ねて開催の予定である. また若手の共同研究者らの海外派遣が同じ理由で派遣・招へいがトドこっていたが, 同じく令和5年度中に若手3名を含む派遣, 及びフランスからの圧縮性粘性流体研究者の招へいを含む国際研究交流を推進する予定で, すでに招へいに向けて, 日程等を調整中である.
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