研究実績の概要 |
酸化物イオンが結晶の単位胞を横切って隣りのサイト(結晶学的な席)に移動するときのエネルギー障壁は陽イオンのネットワークである程度決まるため,高いイオン伝導度は,蛍石型(8配位:立方体)やペロブスカイト型(6配位:八面体)など特定の結晶構造型と配位多面体で発現する.殆どのイオン伝導体は偶然発見されてきたが,本研究課題では,膨大な既存の結晶構造データから5配位ピラミッドや7配位など今までイオン伝導体として注目されてこなかった物質群を抽出し,候補物質を高速スクリーニングすることにより,5配位や7配位といった従来注目されてこなかった配位多面体によるイオン伝導を示す,新型イオン伝導体を探索し,発見した新型イオン伝導体のイオン伝導度を向上させることを目的としている.2017年度はZnを含む酸化物系を探索した.その理由はZnの資源が豊富である上にZn2+陽イオンの電子配置がd10であり,他のd10電子配置を示すGa3+のように優れたイオン伝導体が発見できる可能性があるからである.しかもZn2+を主成分として含む酸化物イオン伝導体は殆ど無いからである.Znを含む酸化物においてほとんどの場合,Znは4配位でZnO4四面体を形成する.本課題ではBaY2CuO5型構造を持つBaR2ZnO5(R = Sm, Gd, Dy, Ho, Er)に着目した.なぜならBaY2CuO5型BaZnR2O5ではZnが5配位でZnO4ピラミッドを形成するのでユニークなイオン伝導性を示す可能性があるからである.2017年度にBaR2ZnO5(R = Sm, Gd, Dy, Ho, Er)を合成し,結晶構造,電気的性質および光学的性質を調べた.2017年度はこの他にも,Ndが7配位というユニークな特徴をもった,Baを過剰に含む固溶体Ba1+xNd1-xInO4-x/2を初めて合成し,構造と電気的性質を研究した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2017年度はZnを含む酸化物系を中心に探索した.結合原子価法により酸化物イオンが移動するエネルギー障壁を計算した結果,BaY2CuO5型構造を持つBaR2ZnO5(R = Sm, Gd, Dy, Ho, Er)のエネルギー障壁が比較的低いことがわかった.そこで, BaR2ZnO5 (R = Sm, Gd, Dy, Ho, Er)を固相反応法で合成した.得られた試料の放射光X線回折データを測定してリートベルト解析を行い,格子定数が希土類のイオン半径と共に増加すること,化学膨張に異方性が殆ど無いことを見出した.BaR2ZnO5(R = Sm, Gd, Dy, Ho, Er)の中でBaHo2ZnO5の電気伝導度が最も高いことがわかった.BaHo2ZnO5の電気伝導度は酸素分圧に依らず一定である酸素分圧の領域が存在し,バンドギャップが広かった.よって,BaY2CuO5型BaHo2ZnO5が酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーであることを発見した.また,我々が発見した酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーBaNdInO4は,Ndが7配位多面体NdO7を形成するというユニークな構造的特徴を有している.Baを過剰に含む固溶体Ba1+xNd1-xInO4-x/2を合成し,単結晶X線構造解析と中性子回折によるリートベルト解析を行い,電気伝導度を測定した.その結果,Ba/Nd比を高くすることによりイオン伝導度を向上させることに成功した.以上の成果は国際学術誌に出版された.また,研究を実施した大学院生が最優秀研究講演賞やポスター賞に輝くなど学会でも注目を集めた.このように実際にユニークな5配位や7配位多面体を含む新型イオン伝導体を発見して論文まで出版するなど成果が次々に出ている.2017年8月に資金を使えるようになったことを考えると,当初の計画以上に進展していると判断できる.
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