研究課題
イオンが移動するときのエネルギー障壁は陽イオンのネットワークである程度決まるため,高いイオン移動度は,蛍石型(8配位:立方体)やペロブスカイト型(6配位:八面体)など特定の結晶構造型と配位多面体で発現する.殆どのイオン伝導体は偶然発見されてきたが,本研究課題では,膨大な既存の結晶構造データから5配位や7配位,複数の混合配位など今までイオン伝導体として注目されてこなかった物質群を抽出し,候補物質を高速スクリーニングし,従来注目されてこなかった配位多面体によるイオン伝導を示す,新型イオン伝導体を探索することを目的としている.また,そのような珍しい配位多面体を有するイオン伝導体の伝導機構を明らかにすることも目的としている.今年度はBa,Zn,Gaを含む酸化物系を中心に探索した.結合原子価法により酸化物イオンが移動するエネルギー障壁を計算した結果,エネルギー障壁が比較的低い候補化合物がいくつか見いだされた.そこで, 実際に試料を固相反応法で合成し,構造解析を行った. Si3O10グループを含む酸化物イオン伝導体を発見し,ドーピングにより酸化物イオン伝導度を向上させた.結合原子価法によりSi3O10グループの陵に沿って酸化物イオンが移動することが示された.また,Znが5配位でZnO5ピラミッドを含む酸化物イオン伝導体BaHo2ZnO5にドーピングを行い,酸化物イオン伝導性を向上させることに成功した.Ndが7配位多面体NdO7を形成するというユニークな構造的特徴を有しているBaNdInO4関連物質BaRMO4において,MO6八面体の回転がTolerance Factorで説明できることも見出し,J. Ceram. Soc. Jpn.に発表した.また,配位状態が珍しいBa3MoNbO8.5のイオン伝導機構を明らかにした.さらに一つの陽イオンが二種類の配位状態を時間に依存して両方とることにより高い酸化物イオン伝導度を示す画期的な新物質も発見しつつあり,特許も出願した.
1: 当初の計画以上に進展している
理由①:本課題ではZnO5配位多面体, NdO7配位多面体やSi3O10グループといった特異な配位多面体を有するイオン伝導体を次々に発見しており,当初の計画以上に課題が進展している.Znが5配位でZnO5ピラミッドを含む酸化物イオン伝導体BaHo2ZnO5にドーピングを行い,酸化物イオン伝導性を向上させることに成功したことは意義深い.さらにSi3O10グループの陵に沿って酸化物イオンが移動するという稀有なイオン伝導体の発見は,ACSの一流誌に成果が掲載され,新聞で大きく報道されると共に,政府系シンクタンクでもレクチャーを行った.理由②:2014年に代表者のグループが発見したBaNdInO4はNdO7という特異な配位状態を持つ.この関連物質BaRMO4のMO6八面体の回転がTolerance Factorで説明できることも見出したことも大きな成果の一つである.理由③:特異な配位多面体を有するイオン伝導体の結晶構造とイオン伝導経路を高温でその場測定した中性子回折データのリートベルト解析と最大エントロピー法による解析により解明した.これらの成果は四面体と八面体のハイブリッド構造のため,四面体酸素と八面体酸素を経由するイオン伝導機構を実験で明確に示し,価値が高いものと世界で認められ,J. Mater. Chem. A(インパクトファクター9.931)にCommunications(速報)として掲載された.これはハイブリッド構造のイオン伝導経路を可視化した世界で初めての例であり,論文のレフリーからも高く評価された.理由④:上記③に基づいて新物質探索を行い,一つの陽イオンが二種類の配位状態を時間に依存して両方とることにより高い酸化物イオン伝導度を示す画期的な新物質も発見しつつあり,特許も出願した.このように特異な配位多面体の新型イオン伝導体を発見したこと,また,特異な配位多面体を介したユニークなイオン伝導機構を解明したことから,当初の計画以上に課題が進展しているといえる.
イオン伝導が報告されていない基本物質について配位多面体の連結様式を調べて候補物質を選定する.結合原子価(BV: Bond Valence)法に基づいて単位胞内におけるテスト酸化物イオンのエネルギー図(BVE図)を計算する.計算したBVE図において格子を横切ってイオン伝導経路が連結するか否かを精査する.連結しなければその物質を候補から棄却し,連結すれば次の手順へ進む.BV法で拡散経路が確認された候補物質群のいくつかについて,第一原理計算によりイオン伝導のエネルギー障壁を計算する.BV法あるいは第一原理計算でスクリーニングした候補物質を合成する.X線回折(リートベルト解析)と蛍光X線分析とICP発光分析により組成と生成相を評価する.昨年度に引き続きZn等を含む化合物を合成し,直流四端子法により電気伝導度の温度依存性を空気中で測定する.電気伝導度が高い組成については,電気伝導度の酸素分圧依存性および輸率を測定する.イオン伝導度が比較的高い試料を大量に合成し,中性子回折および放射光X線回折測定を実施する.回折データを用いて,リートベルト法と最大エントロピー法により核密度分布(中性子),電子密度分布(放射光X線),BVE図,第一原理計算による拡散経路を求め,イオン拡散経路と化学結合を研究する.中性子回折実験を,原子力機構内のJ-PARCのiMATERIAとSuperHRPD,海外の施設(オーストラリアANSTOのEchidnaにて実施する予定である.放射光X線回折実験はつくばの放射光研究施設PFまたは兵庫県のSPring-8にて実施する.発見した新型イオン伝導体の組成を変えて,イオン伝導度が高い組成を探索する.解明した結晶構造を基に,キャリア濃度とイオン伝導度が高い組成を設計し,系統的に組成が異なる試料を多数合成して,電気的な性質を研究する.以上の様に,引き続き特異な配位状態を持つ新型イオン伝導体を探索していく.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (26件) (うち国際共著 7件、 査読あり 25件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (61件) (うち国際学会 14件、 招待講演 14件) 図書 (2件) 産業財産権 (1件)
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