研究課題/領域番号 |
20K20296
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
野口 祐二 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (60293255)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 分極 / 格子欠陥 / エントロピー / 電子材料 / ドメイン / 酸素空孔 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
本研究では,次世代の冷却機器に利用可能な固体冷却技術を開発し,革新的な地球温暖化 対策を我が国に提供することを目的とする.極性材料の分極機能に由来する電気熱量効果を利用することにより,高エネルギー効率かつ温室効果ガスを使用しない新規固体冷却技術を実現する.固体冷却に影響を及ぼす決定因子を抽出し,原子スケール構造解析と電子状態計算を援用し,冷却理論の構築および冷却メカニズムの解明を行う. 昨年度までは,遷移金属イオンの価数を制御した欠陥複合体をもつセラミックス試料の電気熱量効果を評価した。本プロジェクトで開発した高精度電気熱量効果測定系を用いて評価した結果,Figure-Of-Merit (FOM=デルタT/E)は25mKcm/kVを達成した。このFOM値は,相転移温度付近で薄膜試料の報告値よりも一桁大きく、室温で測定された中では世界最高のFOM値を得た。 今年度の当初の目的は,セラミックスのエージング条件を最適化することにより,分極の変化量の大きな試料を作製し,電気熱量効果を向上させることであった。一方,研究環境の劇的な変化のため,研究目的を電気熱量効果のメカニズム解明に変更して,研究を推進した。その結果,マルチドメイン型試料において,遷移金属イオンの価数制御と欠陥双極子の形成・配列制御が,電気熱量効果の向上に有効な材料設計であることを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究において,マルチドメイン型試料が大きな電気熱量効果を示すのは、ドメイン壁の生成消滅によるものであることが明らかになっている。ここでは,電気熱量効果の飛躍的な向上を可能とする欠陥制御指針の構築に向けて,酸素空孔と自発分極との相互作用のメカニズム解明を行った。第一原理計算により,3d遷移金属イオンを含むスーパーセルを作成した。セルに含まれる全ての酸素サイトを対象にして,当該サイトに酸素空孔を作成したセルの構造最適化を行い,全エネルギーを比較した。d4,d5,d6およびd9の電子配置をもつ遷移金属イオンは,酸素空孔をトラップして安定化すること,およびその他電子配置を持つ遷移金属イオンと酸素空孔との相互作用は小さく,酸素空孔はランダムに存在することが明らかになった。また,酸素空孔をトラップする遷移金属イオンが構成する欠陥双極子が,自発分極と平行に配列することで,系の自由エネルギーが安定化する結果を得た。マルチドメイン型試料において,遷移金属イオンの価数制御と欠陥双極子の形成が,電気熱量効果の向上に有効な材料設計であることを突き止めた。
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今後の研究の推進方策 |
格子欠陥とドメイン壁の相互作用を利用した材料設計を基盤として、高エネルギー効率かつ温室効果ガスを使用しない新規固体冷却技術の実現を目指す.現在までに,ドメイン壁の生成消滅に起因する電気熱量効果により,非常に大きなFOMが得られることを明らかにしている。加えて,マルチドメイン型試料において,遷移金属イオンの価数制御と欠陥双極子の形成により,電気熱量効果の飛躍的な向上が期待される。今後は,得られた欠陥制御指針を基盤として,戦略的にセラミックス実験と理論計算を有機的に連携させて,研究を推進する。具体的には,欠陥制御したセラミックスのエージング条件を最適化することにより,分極の変化量の大きな試料を作製し,電気熱量効果を評価する。また,欠陥複合体の濃度が電気熱量効果に及ぼす影響も明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響を含む研究環境の劇的な変化のため,研究計画の変更を余儀なくされた。具体的には,当該年度は主に理論計算を行ったため,使用額が少なくなった。このため,次年度には主に実験に注力して研究を遂行するため,次年度使用額が生じた。
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