研究課題/領域番号 |
17H06242
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
石井 則行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (10261174)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 生体分子 / 膜小胞 / エキソソーム / エクソソーム / ナノコロイド / 電子顕微鏡 / 動的光散乱 |
研究実績の概要 |
エキソソームは、細胞間コミュニケーションツールとして機能し、癌の転移や免疫応答等にも関与する。その分子機構の解明は、疾患診断バイオマーカーや革新的ドラッグデリバリーシステム開発に繋がると期待されている。一方で、エキソソーム研究は黎明期にあり、信頼のおける調製方法が確立・普及しておらず、回収率が極めて低い等、エキソソームの本質を解明する上で解決すべき多様な技術的課題を抱えている。本研究では、エキソソームがナノコロイド粒子であることに留意し、その生物機能特性を根底から理解するためには避けては通れない“インタクト”なエキソソームの調製方法の開発・確立にフォーカスし、物理化学的評価基準から調製条件の適正化を進めた。具体的には、ヒト胎児腎細胞293(HEK-293)の培養上清から密度勾配超遠心分離法により、エキソソームのバイオマーカーとされるテトラスパニンCD63等を指標に免疫生化学的にエキソソーム含有分画を同定し、免疫電子顕微鏡法による評価や、動作原理を異にする動的光散乱法と電子顕微鏡画像解析から粒径を計測し分布様式等を比較検討した。 既報を含む種々の条件で分画調製を試み、電子顕微鏡法による直接観察を系統的に行ったところ、標準的精製法に内在する根本的な問題が明らかとなった。鋭意検討した結果、その大半をセレンディピティとも思えるかたちで克服でき、細胞から分泌された直後のインタクトな物理化学的性質を保持した状態にある膜小胞(エキソソーム)の分画調製に成功した。従来、エキソソームは粒径~100 nmにピークをもつ単純なガウス分布を示すとされているが、本調製分画では粒径~50 nmの集団も確認された。これは、細胞の超薄切片の電子顕微鏡画像に見られるマルチベシキュラーボディ内のエキソソームの粒径と整合した。引き続き、真正なエキソソームのクライオ電子顕微鏡解析に向け、条件検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エキソソームは身体を構成するほぼすべての細胞から分泌される膜小胞の一種であり、かつては細胞の老廃物排出機構の一つと考えられていたが、体循環に乗って他の細胞へと送達され、細胞間コミュニケーションツールとして機能することが明らかとなった。癌の転移等にも関与することから、その分子機構の解明は、革新的なドラッグデリバリーシステム開発に繋がる可能性が高い。一方で、エキソソーム研究は黎明期にあるため、「玉石混淆」、「エキソソームが取れない」等々、多くの技術的な課題も抱えている。 細胞が分泌する膜小胞には、エキソソーム(一般的に直径30~150 nmとされている)の他に、形成過程や内包物の異なる、マイクロベシクル(50~1,000 nm)、アポトーシス小体(800~5,000 nm)等があり、現状それぞれを完全に分離・精製することは極めて困難と考えられている。さらに分泌由来細胞によりエキソソームの性質が顕著に異なるため、“エキソソーム”を明確に定義することすらできていない。 エキソソームに秘められた可能性を、早期に医療診断や治療等に社会実装し利活用するためには、生物・医学的知見の蓄積を急ぐ必要はあるが、分析・解析対象の“エキソソーム”が信頼に足るものでなければ意味をなさない。当該研究領域の現状を正しく理解した上で広く世界から発信される論文や実験データ・解析結果等を冷静に評価・検討することが肝要といえる。本研究において得られた実験データ等に依れば、従来法(現行法)により調製されたエキソソームは、分泌直後の状態(形状や性質等)を保持していないケースが多く、すなわち、変性(凝集や融合等)している可能性を強く示唆しており、根本的な点において我々の開発した調製法の優位性を支持する結果となっている。これらを含めて慎重に検証を進めており、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
電子顕微鏡法による直接観察により、広く医学系領域において採用されている標準的な分離・精製条件では、細胞外膜小胞は容易に変性や融合、凝集等してしまうことが明らかになった。我々の開発した調製技術を用いれば、細胞から分泌された直後の性状を保持した状態にあるエキソソームとして分画調製することができる。エキソソーム研究において、今後、この技術が基盤技術として広く普及することが極めて重要と考えている。 今後は、引き続き「生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法」(PCT/JP2017/013999、特願2018-510600)を共通基盤技術として活用し、疾患モデル細胞株等の培養上清からエキソソームを分画・調製する過程で、クライオ電子顕微鏡解析に適した調製条件の検討を進める。併行して、細胞の生育条件等の影響を分析すると共に、当該調製法の一般化・普及を進める。 本研究助成により導入した電子顕微鏡画像解析装置の解析ソフトウェア環境の整備を急ぎ、エキソソームの生物物理学的特性の解明および評価手法の開発を進める。その際、相補的に動的光散乱法によるナノ粒子径分布解析を行い、電子顕微鏡法による解析データとの整合性を確認する。また、前例のないナノスケール領域(100 nm近傍)における分離分画手法に新たなアイディアを試行し、粒子径指標による画分の均質化に挑戦する。適宜、電子顕微鏡法の要素技術開発を進め、クライオ電子顕微鏡法による膜小胞の形状、三次元構成の解析および“真正な”エキソソームに特徴的な生物物理化学的特性の抽出を急ぐ。 エキソソームがナノスケールのコロイド粒子であることに留意し、所内外の研究協力者と連携して、ナノ物性、コロイド化学、量子力学等、物理化学的基盤からの解析を進める。“真正な”細胞外膜小胞(エキソソーム等)について得られた成果は順次、論文誌や学会等で発表して行く。
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