研究課題/領域番号 |
17H06247
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
柘植 尚志 中部大学, 応用生物学部, 教授 (30192644)
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研究分担者 |
児玉 基一朗 鳥取大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00183343)
足立 嘉彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, ユニット長 (70355387)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 植物病原菌 / 菌類 / 植物 / 病原性 / 進化 / 宿主特異的毒素 |
研究実績の概要 |
Alternaria alternataの7つの病原型の病原性は、宿主特異的毒素によって決定されている。先に、5つの病原型から毒素生合成遺伝子(TOX)クラスターを同定し、それらが生存には必要でないconditionally dispensable(CD)染色体に座乗することを見出した。さらに、CD染色体には共通起源となった染色体が存在すること、CD染色体の成立は古く、その成立には野生宿主が関与したことを示唆する結果を得た。本研究では、TOXクラスターとCD染色体の起源を検証するとともに、野生宿主を探索する。今年度は、主に以下の研究を実施した。 腐生的(非病原性)A. alternata菌株が起源染色体を保有すると予想される。日本産、メキシコ産、ペルー産の非病原性菌株から、CD染色体保存遺伝子の網羅的なPCR検出によって、それぞれ2%、8%、5%が起源染色体候補を保有することを見出した。さらに、ペルー産菌株のドラフト配列を次世代シークエンサーを用いて決定した。 先に、リンゴ斑点落葉病菌の12個のAM毒素生合成遺伝子(AMT遺伝子)のうち7個が、Mycosphaerella属菌から水平移動したことを示唆する結果を得た。本年度は、コムギ葉枯病菌(M. graminicola)の病原性におけるAMT相同遺伝子(MgAMT遺伝子)の機能を解析するために、アグロバクテリウム形質転換系を用いて2株のMgAMT1破壊株の作出した。さらに、破棄株の接種試験よって、MgAMT1が病原性に関与しない可能性を見出した。 リンゴ斑点落葉病菌、ナシ黒斑病菌、イチゴ黒斑病菌の野生宿主を探索するために、農研機構果樹茶業研究部門に保存されているバラ科果樹の多数の系統について、リンゴ菌、ナシ菌に対する感受性検定をさらに進め、主要なリンゴ品種、ナシ品種以外からも感受性品種を見出した。また、リンゴ斑点落葉病菌の潜在的宿主として報告されているボケ8品種について、リンゴ菌感受性を検定し、3品種が感受性であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A. alternataは自然界に広く分布する本来腐生的な糸状菌である。したがって、宿主特異的毒素を生産する7つの病原型は、それぞれ固有の毒素生産能を獲得することによって病原菌化したと考えられ、腐生菌の病原菌化、すなわち病原菌の起源を研究するための単純かつ好適なモデルである。 A. alternata病原菌のTOXクラスターが座乗するCD染色体の起源染色体の探索については、起源染色体候補を保有する複数の菌株を見出すとともに、それらのうちペルー産菌株のゲノムドラフト配列を次世代シークエンサーを用いて決定した。 TOXクラスターの起源遺伝子の機能解析については、コムギ葉枯病菌のMgAMT遺伝子の病原性機能を解析するためにMgAMT変異株を作出する必要がある。本菌は、成育が極めて遅く、形質転換も容易ではないが、アグロバクテリウムを用いた形質転換系を確立し、MgAMT1の破壊株の作出を試みた。MgAMT1破壊ベクターを保有するアグロバクテリウムを用いて分離した200株の形質転換体から、2株の遺伝子破壊株の同定に成功した。予備実験では、MgAMT1が病原性に関与しない可能性が見出された。 A. alternata病原菌の野生宿主の探索については、農研機構果樹茶業研究部門に保存されているバラ科果樹の多数の系統について、リンゴ斑点落葉病菌、ナシ黒斑病菌およびイチゴ黒斑病菌に対する感受性検定を進め、すでに主要品種以外にも感受性品種が存在することを見出している。 リンゴ斑点落葉病菌の潜在的宿主であることが示唆されていたボケについて、さらに供試品種を増やし、それらのAM毒素、リンゴ菌に対する感受性を検定し、8品種のうち3品種が感受性であることを明らかにした。この結果は、リンゴ以外にも宿主植物が存在すること、ボケにも感受性と抵抗性の系統が存在することを示した。 以上のように、今年度は、当初予定した研究をほぼ実施することができ、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
A. alternataの7つの病原型のうち、バラ科作物を宿主とするリンゴ斑点落葉病菌、ナシ黒斑病菌、イチゴ黒斑病菌を主に用いて、以下の研究に取り組む。 腐生的(非病原性)A. alternata菌株が保有すると推定されるCD染色体の起源染色体を探索するために、ペルー産菌株のゲノムドラフト配列のアノテーションによって、起源染色体候補の配列解析をさらに進めるとともに、起源染色体候補を保有する他の菌株についても候補染色体の構造を解析する。 リンゴ斑点落葉病菌が水平移動によって獲得したと推定されるコムギ葉枯病菌のAMT相同遺伝子(MgAMT遺伝子)の機能を解析する。本研究で作出したMgAMT1破壊株について、それらの病原性を含めた各種形質をさらに調査し、MgAMT遺伝子の機能を解明する。MgAMT1破壊株の病原性検定によって、MgAMTが葉枯病菌の病原性に関与しない可能性が示されている。この結果が確認できれば、本来病原性機能を持たなかった遺伝子群が他種菌に水平移動し、新たに毒素の生産に利用され、病原性進化に活用されたことを実証することになる。 農研機構果樹茶業研究部門に保存されているバラ科の野生種も含めた多数の系統を用いて、3病原菌に対する感受性検定を順次進め、新たな宿主を探索する。リンゴ斑点落葉病菌に感受性の品種が存在することが確認されたボケについて、さらに供試品種を増やし、感受性・抵抗性分化について検証する。また、潜在宿主として報告されているユスラウメについても、AM毒素およびリンゴ菌感受性を検定し、本菌が感受性リンゴ品種だけでなく、他種の植物に対しても病原性を有することをさらに確認する。さらに、ボケとユスラウメが自然宿主であることを実証するために、ボケ、ユスラウメに発生している自然病斑から菌を分離し、それらの感受性リンゴ品種に対する病原性、AM毒素生産性を検定することによって、リンゴ斑点落葉病菌の分離を試みる。
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