今後の研究の推進方策 |
上述した2つのアプローチにより、大腸菌にとっての理想的環境を用い、最大限の速度で大腸菌を増殖させることが可能になってきている。加えて、第3のアプローチを用いることにより、その速度をさらに上昇させる方向で研究を進めていく予定である。一方で、増殖速度上昇のメカニズムを解明することも生物学的な観点から非常に意義が大きい。次世代シーケンサーを用いたゲノム解析を行うとともに、翻訳系に焦点を絞った以下の研究も行う予定である。バクテリアの増殖に対する律速となるのは、タンパク質合成装置リボソームの主成分であるリボソームRNA (rRNA)の数であることが古くから指摘されている(Bremer, J Theor Biol, 1975)。一方で、大腸菌細胞内のリボソーム濃度はすでに理論的な上限値に到達していることも指摘されている。したがって、最大増殖速度が上昇した大腸菌は、リボソーム濃度が増加することは考え難いものの、リボソームの翻訳速度や翻訳開始効率などが向上する可能性がある。ゲノム解析の結果と合わせ、大腸菌のタンパク質合成活性に変化が起きるかどうか調べる。具体的項目は以下の通り。 1:rRNA に変異が見つかった場合は、その変異をもつrRNA 遺伝子をクローニングし、大腸菌rrn オペロン欠失相補株で発現させる。リボソームの翻訳活性の変化は欠失相補株の増殖速度から評価する。2:リボソームタンパク質に変異があった場合は、ゲノム工学的手法で祖先株のゲノムに同じ変異を導入し、そのリボソームの翻訳活性を測定する。3:リボソームの生合成因子等に変異があった場合は、祖先株のゲノムに同じ変異を導入後、ショ糖密度勾配遠心法によりリボソームサブユニットの比率を測定する(Kitahara and Suzuki, Mol, Cell, 2009)。
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